俺ガイル ss 破局。 八幡「やはり、俺にとって。 こんな物語は。こんな青春ラブコメは……」1/4【俺ガイルss/物語シリーズss】

【俺ガイル】やはり阿良々木暦のボランティア活動はまちがっている【化物語】 : やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 SS

俺ガイル ss 破局

舞台は俺ガイル寄りで、期間的には俺ガイルは夏休み前。 物語シリーズは、皆、怪異から脱出したパラレルワールドとお考えください。 01 ID:kXzV57rP0 『ボランティア活動についてのレポート』 2-F 比企谷 八幡 ボランティアとは偽善であり自己正当化である。 そもそも人間は、自らにとって利益が無いものは行わない。 逆説的に、ボランティアにも。 無償と喚きつつ、何かの利益があるはずである。 その解は簡潔だ。 体裁である。 良い人。 素晴らしい人。 出来た人間。 そういう世間体を利益として獲得できるのだ。 アーティストがチャリティーライブをやれば、そのアーティストの評価が上がり。 結果、ライブ一回分より大きな報酬になる。 CD売上とか。 しかしながら、それが悪いとは言わない。 やらない善よりやる偽善という言葉がある。 結果的に助けられる人間が生まれるのだからWINWINである。 世間体を気にする方々は、もっと率先してボランティアに従事すべきだ。 そこで言いたい。 これはWINWINでのみ成立しなくてはならない。 すなわち、どちらかがルーザーではいけない。 この場合のルーザーとは、世間体や体裁という報酬が利益にならない人間だ。 すなわち、俺みたいなぼっち、いや1人を好む者にとって周りの評価は必要ではない。 赤ん坊に外車を渡すようなものだ。 不必要なのだ。 よって、俺がボランティアを学校行事とか言う強制力で行わせるのは間違っている。 それは既に強制労働だ。 ストライキも辞さない。 全ての時間が残業対象だ。 そもそも、俺みたいな人間一人が誰かを助けるなんておこがましい。 むしろ俺が助かりたい。 この青春とか言うドラマティックな諸悪達から。 更に言えば、俺が助けられるほどの人間なら、自分の力で勝手に助かってるハズだ。 以上から総合的に考えて。 ボランティアなんていう偽善事業は、有志を募って行うべきだ。 俺は参加したくともその資格がありません。 なので今回は欠席しました。 86 ID:kXzV57rP0 序章 『とにかく、羽川翼はブレない』 00 平塚「チッ……はぁ……」 舌打ちとため息のハイブリッドを繰り出す、目の前の生徒指導の教師、平塚静は俺を先ほどから睨みつけてくる。 俺が提出した、レポートと俺を交互に睨みつけてくる。 いや、マジ怖い。 やめて。 平塚「私は、先日のボランティアの課外活動に欠席した比企谷にレポートを頼んだのだが?」 比企谷「はぁ……」 平塚「課したものはなんだったかな?」 比企谷「ボランティアについてのレポートです……」 平塚「そうだな?じゃあ何故最終的に欠席の言い訳になっているんだ?」 その指でトントンするのやめませんか?圧迫面接です。 誘導尋問です。 そのリズミカルな音が、衝撃のファーストブリットへのカウントダウンにしか聞こえない。 しかもそれキャンセルボタンなさそうですよね?本当に痛いから勘弁してほしいんですけど……。 比企谷「いえ、その。 ボランティアについて自分なりの考えを述べる上で、結果自分の正しさも一緒に証明したんです。 ホラ、一粒で二度おいしいってヤツです」 平塚「そうか、なら2度も楽しめたお礼をしなくちゃいけないな……。 すまない。 私は一粒で一度しかうまみを与えられないのでな」 比企谷「ちょっとタイムタイム!そのうまみって一部の人間がご褒美と崇めるタイプのうまみでしょ!?ノー!ストップ暴力!」 懇願むなしく、俺の願いは棄却された。 おい、朝ごはん。 戻ってくるな、喉までただいまをしてくるな。 お帰りじゃなくてお帰り下さいお願いします……。 比企谷「ぐへ……」 そうやってすぐ拳で解決しようとするから貰い手が居ないんじゃないんですか? と、言えばラストブリットが来るのはわかっているので心の奥底に投げ捨てた。 平塚「まあ、セカンドブリットは保留にしておこう。 結局君は何も変わっていないんだな」 比企谷「ふぅ……。 前にも言ったように変わる事は本人の意思です。 俺のモットーは初志貫徹!」 平塚「あ?」 比企谷「いや、すみみゃへん」 アンタ、本当に先生ですか?どこにヤンキーみたいに生徒に向かって睨みきかせる教師が居るんですか?咄嗟に謝っちまったよ。 寧ろ下半身が緩くなりそうなほどだ。 平塚「そもそも、君に半永久的に課している奉仕部での活動こそ。 そのボランティアだと思うのだが?」 比企谷「いえ、それは先生が無理やりさせているからであって。 辞めていいと言ってくれれば今からでも辞めます」 平塚「まあ、それなら本格的に君は3年じゃあ卒業できないな」 比企谷「でしょう?それが奉仕部においてのメリットですよ。 その利益が無いと俺はボランティアとかしない。 そもそも、今回休んだのも不可抗力であり故意ではないので……」 平塚「……」 比企谷「レポート書きなおします」 無理。 正当な意見でさえも言える雰囲気じゃないっす。 警察の取り調べとかも、こうやって無罪の人々が自白させられてしまうのか……。 平塚「よろしい。 はぁ、それにしても君の目は4月から寸分違わず腐ったままだな」 ほっとけ。 01 ID:kXzV57rP0 「失礼します。 平塚先生はいらっしゃいますか?」 不意に、職員室の入り口から、透き通る声がした。 例えるならば、メガネを掛けてテレビの中に入るスパッツガールとか。 我儘で自己陶酔なゴールデンな時間を生きるお嬢様とか。 オッドアイで世話上手な麻雀部部長。 みたいな声。 そして俺と今対面している平塚先生の名前が呼ばれたので、俺はその声の方へと向いた。 まあ、その声の主を見た所で、この学校の生徒という時点で見覚えはあるはずないけど。 案の定女子だった。 リボンから察するに3年生。 見た目から察するに良い人。 多分委員長。 三つ編みが両端から伸びていてメガネをかけていて。 まさしく真面目です!と主張せんばかりの見た目だった。 いや、失言だった。 その胸部は真面目ではない。 平塚「ん?ああ、羽川か」 平塚先生はどうやら知り合いらしく、手でその委員長さんを職員室に招き入れた。 まあそもそも知り合いだから委員長さんは平塚先生を名指ししたんだよな。 いや、待て待て。 俺今勝手に委員長って名付けたけど、これ委員長じゃなかったら悪口じゃね? 羽川「あ、先日のレポートを提出に来ました」 平塚「すまないな、委員長だからと雑務を任せてしまって」 あ、今正解発表来たよ!パンパカパーン!比企谷選手大正解です! やはり、俺のぼっち特有識別眼に狂いはなかったようだな。 ってか、先生一度でいいから俺が雑務している時もそういう台詞くださいよ。 いつもいつも「おう」しか言ってくれないじゃないですか。 俺委員長でもないのに。 何?亭主関白なんですか?身近にいるとそれが当たり前になっちゃうんですか? 離婚沙汰よ!そういうのが破局の原因になるのよ!もう信じらんない!八幡ぷぅ! 比企谷「いや、でもそもそも破局以前か……」 平塚「ん?何か言ったか比企谷?」 ヤベッ!声出ちゃった!家で独り言話す癖でつい音声をオンにしちゃってたよ。 あぶねーあぶねー。 あれだよ、PCとかでイヤホン抜けて女性の不埒な声が部屋中大合唱とかそんな感じの不可抗力ですよ。 って誰に言い訳してんだよ。 平塚「あ、申し訳ありません。 面談中でしたか?」 俺を視認して改めて委員長さんは畏まった。 なにその言葉づかい。 社会人ですか? 平塚「ん?あぁ、そんな感じだ。 まあそんな大した話はしていないから。 安心したまえ。 羽川が聞いてマズい話などではないよ」 すると、委員長と俺は目があった。 いや、正直に言うと、胸部を見ようとした時に委員長さんがこっちを向いた。 ヤバい。 何あのおっぱい。 ダイソンなの?目線の吸引力半端じゃないんだけど。 羽川「あ、初めまして。 3年の羽川翼です」 いきなりの自己紹介に俺は目を見開いてのけ反る。 いや、別にそんな礼儀正しくされても、俺なんてもう2度と会わないレベルの底辺カーストですよ?何この人。 素直にスゲェ。 61 ID:kXzV57rP0 羽川「比企谷くん?ああ、奉仕部の比企谷くんですか?じゃあ、ひょっとして部活のお話でした?」 比企谷「え?あ……ウス」 何で知ってんの?怖い、怖いよ。 俺の事が実は好きだったパターン…。 は、数学でゼロとみなせる確率なのであり得ないとしても。 ユキペディアよりペディってるって。 ペディりすぎてヤバい。 …………いや、まぁ。 そもそもペディってるなんて造語ないけども。 平塚「羽川……君は本当に何でも知っているんだな」 羽川「いえいえ。 そんなことありませんよ」 平塚「まあ、一言で言って、問題児のような子だよ、比企谷は」 比企谷「誰が問題児ですか誰が。 多感な時期の子供に滅多なこと言うと不登校になりますよ?俺」 平塚「自分で言える奴は不登校にはならんよ。 ……あ、そうだ」 平塚先生が手を叩いて、何かを思いついた素振りをする。 絶対楽しい事じゃないのは予想できる。 だからこそ俺は無言で聞かない。 こういうときは敢えて空気を読まずにスルーするのが良いに決まっている。 アレだ、友達の「あー…もう最悪」と一緒。 どうしたの?って聞いたら愚痴のオンパレード。 ってか俺に友達いねーけど……。 羽川「どうされました?平塚先生?」 はぁ……。 この委員長さんはどうやら空気を読んでしまったようだ。 そのパンドラの箱を開けると被害が来るの俺なんだけどな……。 平塚「羽川、君は今週末の課外活動にボランティア活動を選択していたよな?」 羽川「え?ああ、はい。 山のゴミ拾いですよね?」 平塚「ああ、そうだ」 オチ、読めるんだけど。 えー……それは嫌だ。 断固拒否。 平塚「比企谷?」 比企谷「………嫌です」 平塚「まだ何も言ってないのだがな?」 比企谷「どうせアレでしょ?そのボランティア活動に俺も参加しろって言うんでしょ? 3年生の人たちの中に1人行けと?いやーペナルティにしても重すぎる刑罰ですよそれ。 もう少し情状酌量の余地という物もあっていいんじゃないでしょうか?」 もう殴られてもいい。 ただこの状況で最悪なのはこの議題が否決される事だ。 だからこそ俺は拒絶する。 必死に否定する。 だってそもそもボランティア活動を欠席したのも。 小町が熱出しちゃったからなんですよ? お涙頂戴の美談ですよ? だから俺は悪くない。 故に理不尽だろうが勘違いだろうが。 34 ID:kXzV57rP0 平塚「情状酌量の余地……ねぇ?」 平塚先生が口をとがらせて、人差し指を唇にあてる。 その考える仕草。 ちょっと可愛い……。 でも年齢的にアウトです。 残念……。 羽川「私は構わないよ?比企谷くん。 基本的に班行動で、私たちだけ3人班だから」 委員長さんが笑顔を向ける。 いや、その聖母みたいな包容力にも俺は騙されない。 ここで更に! 比企谷「いやー。 そういうじゃないですか?でもですね? 例えば、それ現地集合ですか?」 羽川「え?ううん。 学校に集合してから出発だよ?」 比企谷「ホラ、そもそもまずそこですよ。 そこで俺が1人学校の3年集合の最中に行けば。 「あれ?誰?」「2年?」「間違えてる?」「え?何でいるの?」 と……。 陰口、誹謗中傷、嘲笑いの集中豪雨ですよ」 羽川「いや、そんな事……」 比企谷「ないかもしれませんが、あるかもしれない。 そもそも、俺の精神がすり減ります」 羽川「うーん…。 あ!じゃあ、私と一緒に居ればいいよ。 私と話せばいいじゃない? 会話に気を取られてそんな被害妄想はできなくなるでしょ?」 比企谷「……まあ、じゃあ次に。 移動方法はどうですか?」 羽川「え?バスだよ?」 比企谷「でしょう?あれって、ボッチを否定した乗りものなんですよ。 ホラ、座席。 2人一組じゃん。 だから俺が参加する事で、誰か一人がハズレくじを引くことになりますよ? つまりは俺、ハズレ担当」 羽川「じゃあ、私と乗ろうよ。 3人班だから、阿良々木君と戦場ヶ原さんが乗って。 私と比企谷くん。 ホラ、これで君はハズレじゃなくなる」 比企谷「……まぁ、そうッスね」 羽川「それとも。 嫌かな。 私とじゃあ……。 22 ID:kXzV57rP0 え?なにこの委員長さん。 俺の捻くれた意見さえも笑顔で背負込んじゃうんだけど。 聖母かビッチですか?もしくはその両方。 いや、聖母でビッチって何だよ。 聖母ビッチ……。 略して聖母ッチ。 俺じゃん。 平塚「比企谷……。 君がそこまで言うなら。 私からも譲歩しよう」 比企谷「え?」 平塚「比企谷……。 君に奉仕部に依頼することを許そうじゃないか」 比企谷「え?ちょっと。 違いますって……ですから」 平塚「君は情状酌量の余地をくれと私に言ったのだろう? ならば、逆にいえば。 譲歩さえすれば行くと言った事に等しいのではないのかな?」 暴力の強制力と、優しさの強制力。 どこぞのバトル漫画の解説役っぽく言うなら、「このペアなら、神をも倒せる」と言わんばかり。 でも、俺は神どころか紙耐久なんですよ。 とにもかくにも、もう未来は決まっちゃってる。 選択肢も希望も。 俺の未来には存在しない。 81 ID:kXzV57rP0 俺ガイルSide 第一話 『しかしながら 雪ノ下雪乃は了承する』 「意味が分からないのだけれど」 奉仕部。 平塚先生と、脅威の驚異の胸囲の委員長との板挟み攻撃を喰らった俺は、放課後、足早にそこへ行く。 ……あの二人に板挟みされる。 その言葉の響きはそう悪い物じゃないなと、ちょっと口角が緩んだ。 雪ノ下「意味が分からないと言っているの」 いつにもなく冷淡に喋るなコイツ。 なんだ?飼い犬にでも手を噛まれたのか? いや、雪ノ下の場合犬というより猫…かな? 雪ノ下「聞いてるのかしら?貴方の発言に対しての返答だったのだけれど……。 ちなみに、その顔は凄く不快だから今すぐ辞めないのであれば警察を呼ぶわ」 比企谷「え?変な顔してた?」 雪ノ下「いえ、真顔」 比企谷「真顔が不快ってか?ったく……。 まぁ、その。 なんだ? そういう事を言われてさ。 平塚先生に」 部室には雪ノ下雪乃がいつものように椅子に座って読書に励んでいた。 そこに俺がいつものように来て、昼の事を話した。 比企谷「だからよ、奉仕部の依頼として。 お願いしてんだよ。 俺が3年生の中1人でボランティア活動に参加させられるから。 お前と由比ヶ浜に手伝ってくれと」 雪ノ下「その言葉の意味は分かっているわ。 それに対しての納得と言う意味で求めているのだけれど。 それは結局、あなた個人の責任でしょう?自業自得。 その尻拭いを何故しなくてはならないのかしら?」 比企谷「奉仕部なんて元々そんなもんだろ?誰かの面倒くさい事を助けるんじゃねーのかよ」 雪ノ下「勘違いしているようね。 奉仕部は決してそのような事をしない。 魚を取ってあげるのではなくて、その取り方を教えるのよ?」 比企谷「ああ、確かにそうだったな。 じゃあ、その魚の取り方を教えられる依頼者が、体が動かせない状態だったらどうすんだ?」 雪ノ下「それは……。 目的が食事というのであれば。 魚以外の食物で、依頼者が可能な方法で採取できる物を教えてあげればいいじゃない」 比企谷「アントワネットかよお前。 じゃあ、その例になぞって、俺はその動けない依頼者だ。 どうするんですか?」 雪ノ下「自分で自分を無能だと言っているのだけれど、それは理解できているの?」 比企谷「当たり前だ。 そう言ってんだから。 俺にはコミュ力とか言われるパラメーターはいくらレベルが上がっても上がんないんだ」 雪ノ下「そうね、貴方にコミュニケーションを求める方が間違いね」 比企谷「おい、「力」をつけろ。 84 ID:kXzV57rP0 雪ノ下「はぁ……。 まぁ、この会話に生産性が無い事も分かり切っている事なのだけれど。 で?それは、いつなのかしら?」 え?いまこの方は「いつ」と聞きました?それって日時を示す、when的な意味のいつですか? 何?意外とやる気だったりしてくれんの?ツンデレゆきのん最高っすわ……。 比企谷「え?今週末。 正確には土曜日の8時半に校庭集合」 雪ノ下「ふぅん。 いってらっしゃい」 比企谷「え?いやいや、え? なし崩し的に「あーもうしょうがないわねー」っていう。 そういう展開じゃねーんですか?」 雪ノ下「比企谷くん。 世の中はそんなに甘くないわよ?」 比企谷「世の中じゃなくて、お前が甘くねーんだよ。 世界とお前を一緒に語るな。 糖分とれ糖分。 MAXコーヒーとかお勧め」 雪ノ下「あら?味覚的な甘さの議論をしているつもりはなかったのだけれど。 やはりコミュニケーションを取るのは難しいようね」 比企谷「あーわかりましたわかりました。 もういいです。 1人3年生の荒波にもまれてきますよ」 雪ノ下「ええ、ちょっとはマシになるんじゃないのかしら」 比企谷「チッ……」 食えねえヤツって言葉があるけど。 雪ノ下はそもそもそれ以上だ。 喰いたくないヤツ。 いや、性的な意味では断じてない。 最初から期待はしていなかった。 他の誰かの頼みならいざしらず。 俺の頼みを二つ返事で了承するわけがない。 むしろ笑顔で崖に突き落とし、更なる笑みで高みから手を振ってくるに違いない。 本当に友達じゃなくてよかった……。 むしろ、こいつと友達になれる奴の気がしれねぇよ。 そいつはあれだな。 とびっきりのバカか、聖母くらいだ。 53 ID:kXzV57rP0 由比ヶ浜結衣。 俺と雪ノ下と同じ部活の人間だ。 雪ノ下の一方的……、いや。 既に相思相愛か?まぁ、友達だ。 由比ヶ浜「え?何ヒッキー。 ゼンシャ…?」 雪ノ下「おはよう。 由比ヶ浜さん」 由比ヶ浜「うん!ゆきのん、やっはろー!」 由比ヶ浜はいつものように、いつもの場所へ座る。 俺と雪ノ下が、机の端と端に座るその中間。 由比ヶ浜「でさーヒッキー。 ゼンシャって何?」 比企谷「あ?いや……なんでもねーよ」 由比ヶ浜「むー。 変な意味だったらぶっとばすかんねー?」 年頃の女の子がぶっとばすとか言うな。 もしも小町がそんな言葉づかいし始めたらお兄ちゃん泣くよ? ん?待てよ? 比企谷「あ、そうだ由比ヶ浜」 コイツに頼めば……。 由比ヶ浜に頼めば、ボランティア活動に一緒に来てくれるんじゃねえのか? 俺からが無理でも、由比ヶ浜からなら成功率は飛躍的にあがる。 まるで孔明さながらの機転! 由比ヶ浜「ん?どしたのー?」 比企谷「今週末。 ボランティア活動に行かなきゃいけないんだが…。 その、一緒にいかねーか?」 由比ヶ浜「ふぇ?……それって?え?え?」 え?なんでそんなキョドんの?やめてよ。 俺変な事言ったか? 雪ノ下「落ち着いて由比ヶ浜さん。 デートの誘いじゃなくて拷問の同伴のお願いよ?」 由比ヶ浜「え?」 比企谷「えっとな……」 雪ノ下にさっき言ったのと同じように、俺は由比ヶ浜にも昼の事柄を説明した。 由比ヶ浜「……なーんだ。 でもそれヒッキーの自業自得じゃん? それにあたしたちが付いていく意味はなくない?」 比企谷「まあ…そうなんだがな」 雪ノ下に正論を言われるのはいつもの事だが、事、由比ヶ浜に関して正論を言われると若干傷つくことが判明。 もういっそアレだ。 当日に体調不良を訴えよう。 そうすれば万事解決。 そうすればボランティア活動に参加できなかった罰の。 ボランティア活動に参加できなかった罰として。 今度はちゃんとしたレポートを書こう。 平塚先生からの暴力は甘んじよう。 この二人を説得できない俺のトークスキルを恨もう……。 75 ID:kXzV57rP0 由比ヶ浜「まあ、でも……いいよ?」 比企谷「え?」 逆転サヨナラ満塁ホームラン?まさかの? 顎が鋭くなりそうな感じに、俺の心はざわついた。 由比ヶ浜「ヒッキーには、色々助けてもらったし。 なんか、そういう恩返しじゃないけど。 ヒッキーが困ってるんなら。 力になってあげたいなーって……えへへ」 ………なにコイツ。 え?俺今ゲームしてたっけ?ときめいちゃうメモリアっちゃうゲームしてたっけ? ラブをプラスしてたっけ?なんで目の前でイベント進んだの? 勘違いするじゃねーかよ。 やめろよ由比ヶ浜。 そのビッチスキル発動すんな。 比企谷「いいの?」 由比ヶ浜「うん……。 だって、あたしが居れば、その。 ちょっとは……安心…でしょ?」 比企谷「お……おぅ……さんきゅ……」 目を見れない。 何これ。 ただ学校の課題を手伝ってもらうってだけなのに。 すっげー恥ずかしい…。 02 ID:kXzV57rP0 雪ノ下「はぁ……良かったじゃない比企谷君。 これで1人じゃなくなったわね」 由比ヶ浜「うん!これで3人!」 雪ノ下「え?その人数の内訳は聞きたくないのだけれど」 由比ヶ浜「ゆきのんも行くでしょー?」 これだよコレ。 由比ヶ浜の速攻トラップ効果!リア充オーラ! 「おーい置いてくぞ?」「バーカ。 俺たちもう友達だろ?」みたいなヤツ。 由比ヶ浜のこういう攻撃には、流石の雪ノ下様といえども太刀打ちできまい。 雪ノ下「残念だけど、私は由比ヶ浜さんのようにこの男に恩を返す必要が無いの。 だから奉仕部としては今回否決されたこの男の願いをかなえる義理はないの」 由比ヶ浜「願いとか恩とか……。 むー!いいじゃん!3人で行こうよ!」 雪ノ下「……何故?そこまで食い下がる意味を知りたいのだけれど」 由比ヶ浜「だって……ヒッキーと二人っきりだと……その……。 デートみたいで……」 デートってお前。 3年生のボランティア活動だろうがよ。 そんな風に見えねぇよ。 まぁ、由比ヶ浜にしてみれば。 俺と二人でいるってのが噂になると困る種なんだろうな…。 自他共にそれは認めている。 雪ノ下が、由比ヶ浜の方をちらりと見て、1つだけため息をついて本を閉じた。 雪ノ下「今回だけよ?」 由比ヶ浜「さっすがゆきのん!」 何はともあれ雪ノ下はついてきてくれる。 いや、これが必要だ。 奉仕部の3人が全員参加することが重要なのだ。 これで傍から見れば『部活動』だ。 俺が1人で行くのとは雲泥の差。 元々、1人で行くのとさして変わるわけがない。 向こうで会話する相手を欲するんなら、戸塚を誘う他ないから。 でも、周りの目。 そこをどうにかするにはこれしかない。 部活動を知らなくとも、女子2人がボランティア活動に参加したがっていて。 仕方なく俺が付き添うと言った形に見られればそれで良し。 完全なカモフラージュ。 これで乗り切れる。 後は同じ班の委員長さんと他2名と適当な言挨拶を交わしてゴミ拾って帰ればいいだけ。 85 ID:Nw11kqOB0 物語Side 第貳話 『こよみボランティア その壹』 01 「意味が分からないのだけれど」 彼女はそう言った。 簡潔に冷徹に明瞭に正確に言い放つ。 いっそ突き放すという表現もハマるほどの言葉で、言い放つ。 戦場ヶ原ひたぎ。 彼女は私、羽川翼の相談にたった一言言い放つ。 羽川「うーん。 簡単に言い換えて、更に良いように意訳すると。 私たちの班だけ3人班だから、他の6人班と合わせる形で後輩が班に加わるってことかな?」 それはお昼の事である。 比企谷八幡という人間と、たまたま出会った私は、流れで週末のボランティア活動を共にする。 それの了承。 というか、既に事後報告を今。 戦場ヶ原さんに伝えている最中なのである。 戦場ヶ原「いえ、確かにボランティア活動への参加の指揮は羽川さん。 貴方に任せたのだけれど。 これは意外ね。 まさか私も、面識のない人間と、ましてや回生が違う人と班を組むなんて思わなかったもの。 私のような人間が、あなたは、初対面の人間と楽しく清く正しく共に歩めると思うのかしら?」 羽川「大丈夫じゃないかな。 その子たち…。 まぁ、正確にはまだその全員と決まったわけじゃないけど。 同じ班になる3人は、『奉仕部』っていうそもそもボランティア活動みたいな部活動をしている人たちだし。 」 戦場ヶ原「奉仕部?聞いた事のない部活動ね。 淫靡な響きさえするわ」 羽川「淫靡って。 今日日女子高生が、むしろ若い人が使っていい言葉じゃない気もするけど。 まぁ、あんまり知られてない部活動であるのは確か。 ホラ、あの平塚先生の部活」 戦場ヶ原「平塚?ああ、あの白衣を常に来ている戦闘民族? 勝手な想像で運動部の顧問だと思っていたわ」 羽川「あの人結構アグレッシブな所あるからね……。 でも、戦闘民族は酷いと思いよ?あの人も女性だし」 戦場ヶ原「あら、私も女性なのだけれど」 羽川「私がいつ戦場ヶ原さんに性別的に酷い事を言ったのかな?」 戦場ヶ原「淫靡の下り」 羽川「ああ、そこで傷ついちゃうんだ…。 戦場ヶ原さん意外と繊細なんだね」 戦場ヶ原「そう、友人から。 私の数少ない友人から罵倒されて私はもう立ち直れないわ。 残念だわー。 こりゃボランティア活動も行けそうにねぇぜぇー」 羽川「棒読みで説得力のかけらも感じられないし……。 何かに理由つけてるけど。 とどのつまり戦場ヶ原さんは3人で行きたかったの?」 戦場ヶ原「あら、何を当たり前のことを言っているのかしら。 3人で行って。 66 ID:Nw11kqOB0 羽川「うわぁ。 なんていうか、私が言うべきじゃないんだろうけど。 普通こういう場合は、大抵。 逆じゃないかな? 阿良々木君と戦場ヶ原さんが仲良くするのを恋敵の私に見せつけるんじゃないのかな?」 戦場ヶ原「それならそもそも同じ班に誘わないわよ」 羽川「正論を突然言われると返す言葉がありません……」 戦場ヶ原「で?残念ながら。 誠に遺憾ではありながらも。 その子たちは同じ班になっちゃうのかしら?」 羽川「うーん。 戦場ヶ原さんがそこまで拒絶するのなら。 私は明日にでも断るんだけど。 私、その比企谷君って子と約束しちゃったんだよね。 一緒に行くって。 約束は破れないから、それなら私はあの子たちの班に入ることになっちゃうね」 戦場ヶ原「いやいや羽川さん?それはもしかするともしかしてなのだけれど。 私が阿良々木君と二人っきりのツーマンセルって事?」 羽川「そうだね」 不意にそう言うと、これもまた不意に。 彼女は眼を見開いて、見て分かるくらいにたじろいだ。 戦場ヶ原「いやよ。 絶対に嫌。 それだけは絶対に嫌。 勘弁してくださいすみませんでした」 羽川「実の彼氏と二人っきりになれるシチュエーションに対する返答じゃないよね。 じゃあ、戦場ヶ原さんの選択肢は1つだけになったんだけど?」 戦場ヶ原「ええ、付いていきます。 付いていかせてくださいお願いします」 一瞬だった。 彼女が手のひらを返したのは瞬く間だった。 懇願ともとれるそれは本当に、理解が追いつく隙も見せず一瞬。 阿良々木「話は終わったのか?」 三日月形のクッションに横たわっていた阿良々木君が口を挟んだ。 ここでようやく思い出す。 別に忘れていたわけではなかったんだけれども。 ただ彼が部屋の隅に居るように。 彼の存在が私の脳の隅っこに押しやられていただけ。 戦場ヶ原「あら、いたの?阿良々木君」 阿良々木「ここは僕の部屋だ!いて当然だろ!」 そう、ここは阿良々木君の部屋だった。 私が、週末のボランティ活動について話があるって戦場ヶ原さんに伝えたら。 「あら、それなら今から阿良々木君の家でデートするから。 そこで話して貰えるかしら?」 と、誘われたのだった。 00 ID:Nw11kqOB0 02 阿良々木「で。 改めて質問するが。 話は終わったのか?」 羽川「うん。 戦場ヶ原さんに向けた報告は終わったよ。 次は阿良々木君の番だけど」 阿良々木「いや、僕に対する報告は大丈夫だ。 僕は二つ返事で了承するよ」 羽川「そう。 それなら安心だ。 でも、阿良々木君に伝えるのはもう一つ、違う事なの」 阿良々木「うん?ボランティ活動で、下級生が付いて来ることに対する了承じゃないのか?」 羽川「ううん。 そこじゃないの。 ねぇ、阿良々木君?」 私は1つ息を吸い込んだ。 大きく吸い込んだ。 今から息を吐きだすには、私のいつも通りの呼吸じゃあ足りなかったから。 でも、これは聞いておきたかった。 いや、正しくは。 確認したかった。 羽川「阿良々木君は、困った人が。 その困った人が男の子でも。 本人が助けを求めてなくても。 阿良々木君と似たような人間でも。 その子が困っているのであれば。 助ける?」 私が息を吸い込んで吐き出した言葉に対して。 阿良々木君は益々いつもどおりに喋る。 阿良々木「助けるだろうな。 多分、いや。 絶対」 やっぱり。 絶対的で独裁的で独創的な正義感をもった正義漢。 それが、阿良々木暦なのだ。 羽川「そう。 それを聞いて安心した」 私も同じく。 さっきとは対照的に。 いつもどおりに喋りかけた。 02 ID:Nw11kqOB0 03 「お兄ちゃん?ねぇ起きてる?お兄ちゃん?お兄ちゃんだよね?そこにいるのは?ねぇ、お兄ちゃん?」 阿良々木「そんな何度も兄の名を呼ばずとも最初の一度目で聞こえている。 起きているよ。 月火ちゃん」 月火「そう。 それなら良かった。 いや、起きているなら尚更遅いよ?お兄ちゃん。 羽川さんともう一人、お友達が迎えに来ているよ?」 我が妹。 小さいほうの妹は、僕の彼女を、もう一人の友達と言った。 阿良々木「そうか、待ち合わせの時間には多少早い気もするが。 羽川の事だ。 10分前行動を基本にした10分前行動なのだろうな。 いや、寧ろ僕が寝坊するという可能性を考慮した上での20分前行動かな?」 月火「その考察をする暇があったら。 友達を待たせてしまっている兄に対して。 申し訳なく思って部屋まで全力疾走で迎えに来た妹の心情を汲んで欲しいよ?」 阿良々木「全力疾走の割に息が上がってないぞ」 月火「こんな距離で息が上がるのはお兄ちゃんくらいだよ」 阿良々木「そうか。 で?2人は今どこに居るんだ?」 月火「お邪魔しちゃうと親御さんに気を遣わせるって言って。 外で待ってる」 阿良々木「そうか。 すぐに行くと伝えてくれ」 月火「なんで私が伝えなくちゃいけないのかな?私はお兄ちゃんの妹ではあるけれど。 お兄ちゃんの伝言係じゃない! 人を電報みたいに使うなぁあ!」 いつにもなくピーキーだった。 阿良々木「わかった!行く!今すぐ行く!」 今日は週末。 ボランティ活動の当日。 そして、これから起こる事の前哨戦というかオードブルのような。 前菜に位置づけられる。 これから起こる事と全く関係のない妹とのなんでもない会話。 それから。 いや、これから。 身近で現実的な、怪異なぞ出る幕もないくらいの平凡な物語。 しかしながら、やはり間違ってしまっている物語が……。 幕を開く。 09 ID:Nw11kqOB0 俺ガイルSide 第3話 『何故か八九寺真宵はグイグイくる』 面倒くさい。 結局それは、当日の朝になっても変わらない俺の感情である。 比企谷「ふぁ~……」 小町「あ、お兄ちゃん。 おはよー。 なんでお休みなのに早起きなの? 今日、なんかアニメしてたっけ?」 比企谷「俺は別にアニオタじゃねーよ。 今日はボランティア活動があるんだよ」 小町「ボランティアぁ?何…?お兄ちゃん遂に変な宗教に入信しちゃったの!?」 比企谷「なんでだよ。 まず宗教を考えちゃう妹に俺は残念さを通り越して心配になるよ。 ってか前に言ったじゃんよ。 聞いてなかったのか?」 小町が偏差値の低そうな雑誌を読んでいる傍ら、俺はコーヒーに練乳を入れて一気に飲み干す。 甘くてうまい。 糖分を取るにはやっぱりこの、自家製MAXコーヒーだ。 朝のやる気が一気に満ち溢れる。 俺の目も、死んだ魚の目から死にかけ程度には回復する勢い。 小町「まーたそんなにコーヒー甘くして……。 糖尿病になっちゃうよー?」 比企谷「馬鹿。 俺にとっての最高の回復剤だ。 FFで言うならフェニックスの尾。 DQで言うなら世界樹の葉。 テイルズで言うならライフボトルなんだよ」 小町「お兄ちゃんって死者だったんだ」 比企谷「おう、そうだぞ。 だからこそ俺は死に物狂いに頑張るなんて無理。 何故ならもう死んでいるのだから」 小町「それだと生き返ってないじゃん。 んもー。 お兄ちゃん朝から下向き過ぎだよ? そんな事だと小町は心配だよ。 40 ID:Nw11kqOB0 そんなどうでもいい雑談を小町とずっとしていたところだが。 今日はそうもいかない。 先週末と同じように、空気を読んで小町が体調を崩す事もない。 ならば俺も腹をくくるしかない。 というよりも現状は先週よりしんどい。 先週ならただのぼっち課外活動だが、今回はそのハードルが軒並み上がっている。 3年生と共に行動しなくてはならない。 なんでこうなったんだ?酷いよ神様。 神様なんて信じないが、もしもいるのなら。 嫌いだ。 いてほしくない。 むしろ、だからこそ神様なんか信じてやるもんか! 小町「でもさーお兄ちゃん。 今回は小町もちょーっと罪悪感あるかなーって」 比企谷「あ?なんで?」 小町「だって、小町のせいでお兄ちゃん。 今日ボランティア活動行くんでしょ? 小町が熱を出さなかったらって思うと……」 比企谷「馬鹿野郎。 お前のせいじゃねーよ。 むしろ誇らしい。 更なる苦行を背負っても、俺は妹を助けられたんだからな? お前のために何かしてやれるなら俺は世界を敵に回してもいい! お?今の八幡的にポイント高いよな?な?」 小町「いや、今のはシスコンって言うより厨二ポイント高すぎでどん引き……。 まあそう言ってくれるなら嬉しいかな。 じゃあちゃっちゃと行ってらっしゃい! 帰ってきたらおいしい料理で出迎えてあげるからさ!」 比企谷「おう、期待してるぜ。 んじゃまあ。 いってくら」 小町「はいはーい」 家を出た。 朝日がまぶしい。 足は今にも180度踵を返してもいいと言っている。 頭の中の天使と悪魔も口をそろえて帰って寝ようと誘ってくる。 ため息しか出てこないので。 俺は一歩前に出る。 08 ID:Nw11kqOB0 通学は基本自転車。 でも、今日は。 いや、いつも別に足取りが軽いわけでもないが。 今日は尚更、足が重い。 だから俺は、自転車を押しながら徒歩で学校へ向かう。 時間ぎりぎりに行って、注目を浴びるのは嫌だったから。 早めのタイムスケジュールを組んでいる。 しれっと集合場所であるグラウンドの端。 いるかいないか分かんないくらいの所に身を潜める。 そして、由比ヶ浜と雪ノ下が来たら、これまたしれッとその中に交っていれば万事大丈夫。 オーケー。 抜かりはない……。 だったんだが……。 集合時間がギリギリになってしまうかもしれない事件が起きる。 なんだか知らんけど、後ろから幼女が突進してきた。 意味が分かんない。 俺も分かんない。 小学生か、多分それくらいの幼い女の子が、後ろから猛ダッシュで突進してきた。 壺でも買わされるんじゃないかと。 もしくは新種の当たり屋かとヒヤヒヤする。 63 ID:Nw11kqOB0 「阿良々木さーーーん!」 比企谷「うぐぉ!」 突進してきた幼女は、意味の分からない奇声を発していた。 既に事件だ。 「あれ?」 比企谷「だ…誰?」 振りむいた先にはやはり幼女。 しかし、今ぶつかって来たのに俺の方を向いて首をかしげている。 いやいや、かしげたいのは俺の方だっての。 勝手に首を傾けんな。 傾けんなって。 そんな傾げても、世界はおろか、物語だって傾かねーよ。 かぶかねーよ? 何この子。 メンタル強いな本当に。 ただの人違いでも俺だと顔から火が出るくらいに。 言うなればそれから1週間ブルーになっちゃうくらいの大ダメージなのに。 なんでそんなノーダメージなの?相手が俺だから? 「ごめんなさい。 人違いでした。 知り合いによく似ていたもので」 比企谷「は…はぁ。 そりゃどうも。 気を付けてくださいね」 人違いで突進されたらたまらねーよ。 俺が俺じゃなければ怒られてたよ?俺だから良かったものを……。 まあいいや。 考えるのはやめよう。 思考停止じゃなくて思考放棄。 帰って小町にする土産話ができたと思う事にしよう。 この子との関わりはそれで終了。 このまま会話を続けると事案が発生しそうだ。 「小学生に突進される男の事案が発生」 洒落になんないよ……。 「でも、あれー?私が見えるんですよね?」 比企谷「は?え?」 冷や汗が流れた。 何この子。 中二病なの?もしくはそういう人なの? 元々人と話す事を得意としない俺が、小さな子供。 ましてやそういう人と話すスキルはもってない。 「ああ、すみません。 私、八九寺真宵です。 はじめまして」 比企谷「え?あ、どうも。 比企谷です……」 不意に自己紹介しちゃった。 どんな流れですか?コレ。 52 ID:Nw11kqOB0 八九寺「えっと。 比企谷さんは、今なにをしてらっしゃるんですか?」 比企谷「いやいや。 いやいやちょっと待てよ」 思わず声に出しちゃった。 いや、いくら俺でも。 スルーされ続ける人生を歩んだ俺でさえもスルー出来ない。 どういうことだ?メンタルが強いとか、なんかそういう感じじゃない。 もしかして俺今、スタンド攻撃を受けている? グイグイ来すぎだろ。 何が浜結衣だよお前。 千葉村で会った小学生たちもこんなんじゃなかったぞ?小学生だよね?え? これ幻覚?俺、友達いなさ過ぎてこんな少女の幻覚見ちゃってるの? やべぇ、ボランティア活動行ってる場合じゃねえよ。 病院行かなくちゃ。 八九寺「ハッ!すみません。 初対面なのにずうずうしい質問でした。 知り合いにあまりにも良く似ているもので。 ナイリンの人間のように話してしまいました」 比企谷「いや、ナイリンって……。 それって多分。 「うちわ」って読むんですよ?」 八九寺「うちわ?いえいえ、別に暑くはありません」 比企谷「まあ真夏というにはまだ早いっすからね」 おっと。 普通に会話してしまった。 え?いやいや勘違いしないでもらいたい。 俺だって話しかけられれば普通に会話ごときできるんですよ? たじろいだりなんかしない。 それは勘違いしないでもらいたい所である。 と、自分に喋る。 それにしても、こうも話しかけられると。 俺だって興味が無いわけじゃない。 さっきから言われる「俺に似ている人」が気になる。 どうせ時間はあるんだ。 ちょっとこの意味の分からない少女と雑談を試みることにする。 62 ID:Nw11kqOB0 比企谷「その似ている人って、そんなに俺に似ているんですか?」 八九寺「ええ、制服も同じですし、髪型もソックリです。 雰囲気までもが」 なにそれクローンかよ。 ドッペルゲンガー? 絶対その人と会わないようにしないと、死んじゃうよ俺。 もしくはソレ、隣の世界の俺だよ。 いともたやすく行われるえげつない行為だよ。 それでも出会ったらくっついて死んじゃうよ? 比企谷「それで名前まで比企谷だったらそれ色々と不味いですね」 八九寺「いえ、名前は違います。 その人は阿良々木という人です」 比企谷「阿良々木?聞いた事あるな」 八九寺「え?あの最低最悪の畜生を知っているのですか?」 比企谷「いや、おいおい。 俺に似てるって言って置いて、いきなりなんですか?その形容の仕方は」 八九寺「失礼。 いえいえしかしながら。 彼は最低の人間なのは間違いありません。 私に出会い頭のセクハラはおろか性的虐待を幾度となく繰り返すロリコンです」 比企谷「おいおい。 それ警察行った方がいいんじゃないんですか?」 八九寺「いえ、私もまんざらではありません」 比企谷「……へぇ」 あ、駄目だわコレ。 やっぱり話しかけちゃいけない子供だったわ。 俺の頭の整理は追いつかない。 いや、処理速度の問題じゃなく、拡張子が既に非対応レベル。 キャパオーバーでもなく処理落ちでもなく、単純に種類が違う。 端的に。 この子はイっちゃってる。 45 ID:Nw11kqOB0 八九寺「あわわ!また私とした事がツッコミを前提に話を続けてしまいました……」 比企谷「いや、まあ俺これから学校へ行くんで。 では」 八九寺「学校?今日は土曜日のはずですが?受験勉強ですか? いや、でも受験勉強って女性の家で2人っきりでやるものでは?」 どこのリア充だよ。 そんなんじゃ勉強なんて身にはいらねーよ。 下心しか学べねーよ。 なんでこの子の価値観はそんなリア充基準なの? ってか付いて来るし……。 うわぁ。 八九寺「所で、比企ガイアさん」 比企谷「え?ガイア?俺は女神じゃないっすよ?そもそも男だし。 なんで突然あからさまに噛むんですか?寧ろ噛んだの?それ……」 八九寺「ああ、失礼。 噛みました」 比企谷「いや、そんな謝られても」 八九寺「え?」 比企谷「え?」 八九寺「ああ、すみません。 何度も言うように、貴方によく似た人と似たような会話をするので。 ちょっとその会話をしてみたくなったのですが……。 やはりうまくは行きませんね」 比企谷「そりゃ、俺はそのアラギさんではなく、比企谷ですから」 八九寺「その人は阿良々木です。 ラが足りません。 っていうか!それ私の持ちネタです!パクらないでください!」 比企谷「いや、パクルも何も。 そんな気ないですし。 怒られても困るっつーか」 八九寺「でも、意外とそのパターンもありですね。 先ほどから阿良々木さんを引き合いに出してはいますが、比企谷さんも結構面白い方ですね」 気に入られてしまった……。 この変な子に。 もうヤダ。 75 ID:Nw11kqOB0 比企谷「そりゃどうも。 でも、俺としてはそろそろ自転車に乗りたいんですが」 八九寺「後ろに乗れというお誘いですか?大胆ですね」 比企谷「なんでそんなポジティブなんだよ。 さよなら先生、また明日っ!の時間だって言ってんの」 八九寺「私は小学生です!幼稚園児の別れの挨拶を引用しないでください」 比企谷「今ので分かるのかよ。 察しが良すぎる以前に敏感過ぎて怖い」 八九寺「所で。 幼稚園生の次に小学生って……。 小さい。 と続きますが。 その流れで行くと。 幼い、小さい、中くらい、で。 何故高校生なのでしょうか。 本来小さいのであれば、中の次は大きいの大学生でしょう?」 比企谷「いきなり何?まあ確かにそうだな。 小中大なら流れはいいけど。 高校生って確かにどこから来たのか分かんないな」 八九寺「でしょう?低学生がいるわけでもないのに」 比企谷「響きだけだと携帯の基本料金みたいだな。 高学生なら、携帯の基本料金が高いみたいだしな」 八九寺「確かに。 でもそうしてみると、小学生って色々お得な響きになりますね」 比企谷「お得を良い事に手を出したら痛い目を見ちゃうけどな……」 八九寺「私はお得な女ですね?」 比企谷「そうなると高校生って損だな。 まあ、青春を演じなければならないって言う周りからの圧力の中。 勉強もスポーツも両立させて毎日社会人よろしく朝から出かけなくちゃいけないのは。 確かに損な人間だな。 高校生って」 八九寺「卑屈ですねー……比企谷さん」 比企谷「まあな。 こんな高校生になるなよ?八九寺さん。 いや、寧ろ高校生自体ならないほうが幸せかもな。 欺瞞と偽りで塗り固められた。 まるで台本を読むような事が高校生の幸せなんだからな。 10個の磁石をカチャカチャして算数して楽しんだり。 38 ID:Nw11kqOB0 八九寺「何故そんなに小学生に詳しいんですか?訴えますよ?」 比企谷「訴えるって流行語みたいに皆軽々しく口にするけど。 告訴の方法とか知ってんですか?」 八九寺「告訴?」 比企谷「訴えると行っても費用もかかるし、受付の後に受理と2段構えだし。 さらには何の犯罪かも被害者側が準備しないといけない。 日本は意外と被害者に厳しい国なんだぜ? 俺みたいなボッチは黙って隅っこで泣けって言われるのがオチだ」 八九寺「何故あなたはそこまで卑屈なのですか?」 比企谷「良く似た知り合いさんに聞いてみなよ。 雰囲気も同じなら俺と同じ言葉を言うだろうよ」 八九寺「前言撤回します。 阿良々木さんはここまで卑屈ではありませんでした。 貴方、嫌な人ですね」 ほっとけ。 34 ID:Nw11kqOB0 八九寺「あ、ではそろそろ私は行きます」 比企谷「あ?ああ、まあ一応。 その似た人によろしくな」 八九寺「ええ。 あと、最後に1ついいですか? ただの変な子供の独り言だと思っていただいてかまわないのですが」 比企谷「なんですか?」 八九寺「私に会ったってことは。 多分良い事ではありませんので。 その、迷っては駄目ですよ?色々とおありでしょうが、頑張ってくださいね?」 比企谷「はぁ……」 去っていった。 いや、本当に理解が出来なかった。 気付いたら色々話しちゃっていた。 本当に気の迷い。 話しかけられたから話し返しただけ。 ただそれだけ。 なんだっけ。 八九寺…?聞いたこともない名字だったな。 あの無意味に大きなリュックサックも。 意味が分からない。 どこかへ行く途中だったのか? まるで人生の迷子みたいな子供だった。 と、詩人のように言ってみる。 やべぇ、中二病っぽくてなんか恥ずかしくなる。 ……よし。 気を取り直して学校へ行こう。 早く出たのが幸いして、今から自転車に乗って行けば。 目標の時間にはつきそうだ。 行こう。 ……ットその前に、自販機でMAXコーヒーを買って行こう。 朝から疲れた。 91 ID:W7dhOgLT0 物語Side 第肆話 『こよみボランティア その貳』 01 阿良々木「初めまして。 阿良々木だ」 それだけ言った。 まるで何かの漫画の表紙絵のように、3人と3人が向かい合う凄く近寄りがたい雰囲気の構図。 僕らは今そんな風に立っていた。 羽川が言っていたように。 今日のボランティア活動で、僕たちの班は2年生と同じ班を組む。 基本は6人で一班の行動だったので、仕方がないと言えば仕方がない事なのだが。 その2年生もどうやらワケありで。 先週の2年生の活動に不参加だった人が。 つまりは特別枠という事で僕たちと共に行動するのだという。 つまり、面識はない。 羽川が、僕の目の前に立つ男子生徒、比企谷八幡と会った事がある程度で。 他の由比ヶ浜結衣。 雪ノ下雪乃。 この二人とは羽川ですら面識が無かった。 だからこその自己紹介。 その自己紹介で、僕は簡潔に。 別に趣味や特技を紹介するわけでもなく。 名前だけを伝えた。 由比ヶ浜「羽川先輩って…。 羽川先輩ですか?成績とか凄くいいんですよね?」 羽川「あら、そんなに有名なのかな?まぁ、成績は一応上位にはいるんだけど。 そんなの自慢できる特技でもなんでもないよ」 由比ヶ浜「えー!?十分凄い事ですよ! 私なんかいつも赤点スレスレで……」 比企谷「由比ヶ浜。 お前と同じ頭の人間なんか早々いないから安心しろ」 由比ヶ浜「え?なにそれヒッキー……それ褒めてる?」 比企谷「この言葉を皮肉だって即座に理解できないんなら。 お前は幸せだな」 羽川「比企谷くん?女性にそういう言い方はないと思うよ?」 比企谷「え?ああ、すいません……」 おいおい羽川。 あんまり言ってやるな。 その比企谷君とか言う男子生徒は多分それが基本スタイルだ。 斜に構えるのがかっこいいとか思ってしまう年頃なんだろう。 分かるぞ。 僕みたいな人間はそんなことはないが、大抵の男子生徒はそういう風にふるまってしまう物だ。 僕みたいな人間はそんなことはないが。 28 ID:W7dhOgLT0 羽川「あ、バスが来たみたいだね。 じゃあ、バスに乗ろうか。 えっと、戦場ヶ原さんと阿良々木くん。 由比ヶ浜さんと雪ノ下さん。 そして私と比企谷君でいいんだっけ?」 雪ノ下「すみませんが羽川先輩。 この人間の隣に座ってしまうと、感染してしまうのでお勧めはできません」 比企谷「何に感染するんだよ何に。 隣の座席で感染しちまうんなら、今既にお前は感染してるだろうが」 雪ノ下「セクハラとして訴えるわよ?いやらしい」 比企谷「お前が言い始めたんだろうが!」 羽川「こらこら、喧嘩は駄目だよ?2人とも。 私は比企谷君の隣でも大丈夫だよ?」 比企谷「え?……あ、ありがとうございます」 羽川にとってはいつもの事。 僕にとってもその光景はいつものことだった。 規則正しく、折り目正しい羽川委員長は。 誰にだって優しく、誰にだって公平だ。 だからこそ、特別、好意があるわけでもなく。 別段、敵意があるわけでもないのだ。 大抵、普通。 そういう一般的という枠組みにある行動を、まるで教科書のように行動できる。 それが羽川翼という人間なのだ。 しかしながら、それにより勘違いを生む。 この場合、本来なら比企谷という男子生徒が生み出すべき勘違いのはずなのだが。 しかしどうやら、彼ではなく、別の彼女がそれを生み出してしまったらしい。 由比ヶ浜「え?あ、いやいや!あたし!羽川先輩と座りたいです! 前からお話ししてみたかったんです……なんて」 初対面の先輩が、ただでさえこの彼女。 由比ヶ浜の知らない場所で羽川と比企谷に面識がある。 更に羽川の先ほどの台詞を普通に感じ取ってしまうのであれば。 好意があるように見えてしまうのは仕方がない事である。 つまりは、羽川の行動を、由比ヶ浜は比企谷に向けられた好意だと勘違いしている。 友達が知らない女の人に知らない所で好かれているという事柄がそんなに嫌だろうか。 友人というのは、特に女子というのは。 そうも独占欲が強いのか? 雪ノ下「私は嫌よ?この男と隣に座るだなんて」 そして彼女もまた。 その言葉が100パーセントの真意でないのは見て取れる。 いや、全てが真意でないにしても、彼女。 雪ノ下の場合は、もしかすると5割は超えるくらい。 それが真意なのかもしれない。 いや、しかしながらこれは。 穏やかではない空気だ。 僕はてっきり。 いや、普通の思考なのだけれど。 2年生の3人組は仲の良いグループだと思っていたのだが。 どうやら違うらしい。 いじめ……にしては楽しそうに話しているように見えるが。 それでも、仲は悪そうだ。 正確にいえば、仲違いをしているようだ。 そしてその渦中であり一番の被害者は多分比企谷という男子生徒。 羽川が共に座るという提案を、由比ヶ浜が拒絶し、雪ノ下も否定するのならば。 僕か戦場ヶ原が座るしかない。 69 ID:W7dhOgLT0 阿良々木「なあ戦場ヶ原」 戦場ヶ原「何かしら?阿良々木くん」 阿良々木「お前、雪ノ下って子の隣でも良いか?」 戦場ヶ原「まあ、話の流れからそうしないと駄目みたいね。 構わないわ。 でも、会話が盛り上がる事には期待しないで」 阿良々木「ああ、ごめん。 戦場ヶ原」 戦場ヶ原「いいのよ、謝らないで。 貴方と隣にならなくて感謝するくらいよ。 感染するから」 阿良々木「感染なんてするか!聞いたばかりの台詞で罵倒のレパートリーを増やすな!」 と、まあ。 結論はついた。 入口に近い、入ってから右側。 後ろから。 僕と比企谷。 由比ヶ浜と羽川。 雪ノ下と戦場ヶ原。 そんな不思議な座り方でバスに乗ることになった。 03 ID:W7dhOgLT0 02 バスが出て15分……。 僕は一言も話さずに通路を眺めていた。 本来なら、僕は。 先輩として、人生の先駆者として。 横にいる後輩に話しかけるべきなのだが。 彼こと比企谷八幡という男子は。 それをそうする前から否定している。 否定、いや……。 拒絶という方が正しいのかもしれない。 体の半分を窓に向けて、じっと流れる景色を見つめている。 話しかけるな。 と、体全体からそう発しているようだった。 でも、いやしかし。 僕も手持無沙汰なのだ。 これからあと1時間程はこのバスに乗っていなくてはならないし。 携帯ゲームや小説といった暇つぶしの類は持ってきていない。 阿良々木「なぁ、比企谷……だっけ?ちょっと話しでもしないか?」 普通のお誘い。 彼も絶対に暇なはずだ。 先輩の僕がそう提案すれば。 別に断る理由もないだろうと考えた。 比企谷「あ、いえ。 お構いなく。 大丈夫っすよ。 気を遣わなくても。 1人で時間を過ごすのには慣れているんで」 あっさりと却下されてしまった。 こちらに体を向けることなく、目線だけこちらに向けて。 阿良々木「ううん。 でも、今日は同じ班としての行動だ。 多少なりともお互いの事を知るべきじゃあないのか?」 比企谷「そうですか?いやいや、ゴミを拾って昼食を食べるだけじゃあないですか? そのどちらも1人でやる物じゃないっすか。 それなら互いを知らなくとも業務はこなせます」 あっさりと。 食事を『1人でやるもの』と言った……。 何の迷いもなく。 定理のように。 真理のように。 いや、僕だってこんな事は得意ではない。 つい先日まで友人と呼べるものすらいなかった。 だからこそ。 いや、しかしながら。 今目の前に居る後輩くらいに会話できないでどうする? 僕は自分から友達をつくらなかったわけであって。 友達が作れないわけではない。 前の席の羽川は、流石というべきか。 笑い声が聞こえてくる。 阿良々木「いやいや、業務というけども。 これは学校行事だ。 仕事よりもアットホームにあるべきじゃあないか?」 比企谷「アットホーム?俺、家に友達とか呼んだことないので、それこそアットホームだとしたら俺は1人で大丈夫っす」 地雷を踏んだらしい。 どんな言葉を投げかけても、雑談にならない。 もしかすると。 雑談とは僕が思っている以上に難しいものなのかもしれない。 85 ID:W7dhOgLT0 阿良々木「何故そこまで話したがらないんだ?もしかすると……」 比企谷「?」 その可能性がある。 僕だってかつてはそうだったように。 彼もまた。 そうなのかもしれない。 阿良々木「友達をつくると、人間強度が下がると思っているのか?」 比企谷「え?」 どうやら違うようだ。 いや、その僕に対する明らかに奇人変人を見つめる目線が。 実は暴かれてしまった困惑という場合もある。 しかし、たいていこの場合は。 前者の場合が限りなく100パーセントだろうが……。 比企谷「いえ。 別に友達を作りたくないとかそんなんじゃねーんすよ」 初めて向こうから話しかけてくれた。 なんだろう。 この高揚感と安堵感は……。 阿良々木「じゃあどうなんだ?僕は理由も状況も理解できないまま、お前に否定され続けると。 心が折れるぞ」 比企谷「……例えば、今ここで楽しくおしゃべりするとするじゃないですか」 阿良々木「ああ」 比企谷「そして来週以降の学校で。 先輩はまあ、誰かに今日の思い出を語るじゃないですか?」 阿良々木「ああ、そうかもな」 比企谷「人のうわさは光よりも早く。 俺が学校外で仲良く話しているという事が伝わる」 阿良々木「……」 僕の中に先ほどまで存在した高揚感は、みるみるそのボルテージを下げて。 下手をすれば最初以下へと到達した。 比企谷「そしてそれは俺のクラスにも伝わり。 そもそも先輩が本当に良い人なのか不明ですし。 50 ID:W7dhOgLT0 比企谷「まだあるんすよ。 仮にそれがなかったとしても。 ここで仲良くなったら学校で会ったときに気軽に挨拶するでしょ?」 阿良々木「まあ、ここで仲良くなれたらな。 学校ですれ違ったらおはようくらいは言うだろうな」 比企谷「その時にも、先輩がもしその時誰かと一緒に居たら。 『アレ誰?』と聞かれます。 もしそれが先輩ではなく、雪ノ下や由比ヶ浜なら、部活の友達。 と紹介し。 俺のクラスメイトなら、同じクラスと紹介するでしょうね。 でも、先輩の場合、この前のボランティア活動の時に……。 と説明が要ります。 そして結果。 『なんで3年のボランティアに2年が?』等と話が膨らみ結果的に…」 阿良々木「もういい。 やめてくれ……。 失礼を承知で言うが、何故そんなにも卑屈なんだ?」 比企谷「その質問はアレですよ。 赤ん坊に何故言葉をしゃべらないのか聞くのと一緒ですよ?」 阿良々木「当たり前だとか、当然だとか、そういう類だって言いたいのか?」 比企谷「いえいえ。 赤ん坊に言っても理解はできないでしょう?」 阿良々木「愚問と言うことか!? そんなにもお前の人生は波乱万丈なのか?」 比企谷「いえ?俺の今までの人生をまとめた伝記を書いた所で。 15 ID:W7dhOgLT0 ため息が出そうだ。 こんなにも卑屈で否定的で屈折的で被虐的な人間はそうはいないのじゃないだろうか。 しかしながら、事実今の会話が成立したように。 別に話すことそのものが嫌いではないらしい。 きっと。 彼は平穏な今の学生生活を最大とみなし。 そこからマイナスに働く可能性を全て根絶やしにしている。 そこにプラスの可能性が含まれていてもだ。 運否天賦で変動する今後に身を置くのを拒んでいるのだ。 だからこそ。 他人と仲良くなるというプラスを虐げるのだろう。 阿良々木「じゃあ約束しよう。 今日の事は誰にも言わない。 今後あってもお前が話しかけない限り挨拶もしない。 鬼に誓って約束しよう。 それなら雑談に付き合ってくれるか?」 比企谷「神じゃなく?トップカーストの流行語には疎いんで、ちょっと謎ですよ?それ」 阿良々木「僕は寧ろトップカーストという言葉が謎なんだがな」 とまあ、こういう具合に会話は成立した。 比企谷も、そこまで言われたら。 というべきか。 そう言ってくれるなら。 というべきか。 まあ、どちらにせよ僕と会話をすることを了承してくれた。 話してみれば、いや、話したからこそなのだが。 彼は悪い人間ではない。 困った人間を心配する気持ちや、綺麗なものに感動できる心は持っているのだろう。 ただそれを表に出さないだけで。 僕は予想だが、彼からそういう印象を受けるのだった。 81 ID:W7dhOgLT0 数十分が過ぎた。 比企谷「……で、頭文字を取って、ggrksって言うんすよ」 阿良々木「ああ、そういう事か。 ふむふむ。 お前は色んな事を知っているんだな。 そんなにネットというものに浸ってないからなあ、僕は」 比企谷「ネットはいいですよ。 超便利。 休憩時間とかの必需品」 阿良々木「いや、うん。 みなまで言うまい」 比企谷「言う必要が無いというより、言ってもしょうがないと思いますよ。 俺には」 阿良々木「……所で比企谷。 僕たちって高校生だよな?」 比企谷「いきなり何を?まあ、そっすね」 阿良々木「考えてみると、不思議なものだよな。 僕たち。 高校生になる前は、中学生。 小学生だったじゃないか。 そしてこの後、大学生になる。 高学生ならなんか携帯の基本料金が高いみたいっ……。 81 ID:W7dhOgLT0 比企谷「いや、その。 ……先輩の名字って阿良々木っすよね?」 阿良々木「ああ、そうだ。 阿良々木暦だ。 下の名前は言ってなかったか?」 比企谷「いや。 なんていうか……。 俺、今違う意味で先輩の事信用できなくなりました」 阿良々木「それは何故だ?僕の名前って画数が不吉なのか?」 比企谷「占いとかじゃなく。 簡単に言うと、法律的な意味で」 阿良々木「僕は法に触れるレベルの名前なのか!?」 比企谷「名前じゃなく。 行動が……婦女暴行とか?」 阿良々木「何をいきなり言いだすんだ!? 確かに僕は戦場ヶ原とそういう事がしたいし。 羽川をそういう目線で見たことも認めよう。 でも、それは男子なら誰でもそういう感情になるだろう?」 比企谷「まあ、羽川先輩の乳トンの万乳引力の法則は認めますが……」 阿良々木「それに妹の胸を足で踏みつけた事もあるが。 それは法に触れる事じゃあないぞ!」 比企谷「なにやってんすか……。 さっき妹と仲良くないとか言ったのは嘘かよ。 いやいや、そういう事じゃなくて。 89 ID:W7dhOgLT0 阿良々木「八九寺?ツインテールの大きなリュックを背負った?」 比企谷「ええ、その八九寺っす。 今日たまたまその子に会って、俺。 どうやら先輩と見間違えられたらしく。 たまたまそういう話を聞きました。 セクハラ行為をされていますって……」 阿良々木「会った?八九寺に?本当にか?」 比企谷「これが嘘だったら。 俺は一流の詐欺師ですね」 阿良々木「いや、まああったことに関しての疑問は今置いておこう。 しかしだな。 僕は八九寺にそんな事はしない。 寧ろ彼女の貞操を僕は守っているんだ。 ホラ、八九寺は可愛いだろ?だから僕はもしそんな極悪非道な人間がいたら許せない」 比企谷「まあ、あの子もちょっと意味の分からない子供だったんで、話半分ですけどね」 阿良々木「分かってくれればそれで嬉しい」 比企谷「先輩の言い訳も話半分ですけど」 阿良々木「それならイーブンで相殺されるな」 比企谷「ぷよぷよかよ」 阿良々木「どっちかといえばテトリスだな」 比企谷「違いがわかんねーっすよ」 阿良々木「単純だ。 47 ID:W7dhOgLT0 03 その後僕と比企谷は、なんてことはない雑談を続けただけなので。 多少時を戻して、語り部を戦場ヶ原辺りにでも渡すとしよう。 77 ID:W7dhOgLT0 04 初対面の人間と話すのが苦手になってしまったのはいつ以来だろう。 少なくとも中学生の頃の私はそうではなかった。 まあ、いつから、という時間的な問いに対してみれば、その答えはすぐに出る。 蟹に会ってしまってから。 まあ、それでも中学生のころから変わらず。 横で読書をする後輩に話しかける言葉もなければ、話しかけようとも思いはしなかった。 由比ヶ浜「ゆきのんもポッキー食べる?」 後ろの座席から。 後輩が後輩へポッキーを差し出す。 まるで遠足みたいな雰囲気だった。 雪ノ下「遠足じゃあないんだからお菓子を持ってくるのはタブーだと思うのだけれど。 これも学業の一環なのだから。 校則違反にならないとしてもモラルを持つべきよ?」 言葉が被った。 いえ、といっても私は発言していないのだし。 そんな校則の事など話すつもりもなかった。 由比ヶ浜「もらる?マナーじゃなくて?」 羽川「モラルは道徳や倫理って意味だよ?ちなみにマナーは礼儀作法とかだね。 まあ、この場合雪ノ下さんがいうモラルは、常識とかそういう意味合いが強いかな」 あらあらこれは羽川さん。 なんとも分かりやすい解説をどうもありがとう。 私も若干不安があったのだけれど、それをも解消する流石の解説力ね。 本当に、羽川さんって何でも知っているのね。 羽川「まあ、特にルールの上でお菓子類の持参は禁止されてはいないからね。 でも、まあ今から奉仕活動へ行くのに遠足気分は確かに頂けないね……。 ごめんなさい雪ノ下さん。 私も一本貰っちゃったから同罪です」 雪ノ下「あ、いえ……。 別に説教をしたつもりも、羽川先輩を咎めようとは思っていなかったのですけれど」 羽川「じゃあ、一本どうぞ?」 由比ヶ浜「うん!どうぞ!ゆきのん」 雪ノ下「え、ええ。 じゃあ一本貰うわ」 流石羽川さん。 というか他人に対する。 更に言えば、どんなタイプの人間にも対する接し方を知っているのかしら。 この雪ノ下さんという人間は感情表現が苦手そうね。 私と違って。 私は違う。 感情表現が苦手なんじゃなく。 敢えて感情を表に出さないだけ。 嫌だわ。 なんだか阿良々木君と似たような事を言った気がする。 気のせいね。 96 ID:W7dhOgLT0 由比ヶ浜「戦場ヶ原先輩も一本入りますか?」 不意に話を振られた。 こんな時、どういう顔していいか分からない……。 笑えばいいと思う……事はないわね。 戦場ヶ原「それは私に言っているのかしら?」 由比ヶ浜「ふぇ?え、はい。 嫌いですか?ポッキー……」 戦場ヶ原「いえ。 ポッキーは好きよ。 でも、出来ればチョコを無くして代わりにミルクを混ぜてあった方が好きね」 由比ヶ浜「それじゃあポッキーじゃなくてプリッツのローストになっちゃいますよ?」 戦場ヶ原「あら、これは失礼。 棒の方を太くしてチョコを傘のように変えた方が良かったかしら」 由比ヶ浜「え?えっと……」 羽川「きのこの山?」 由比ヶ浜「それだ!」 戦場ヶ原「正解」 羽川「いや戦場ヶ原さん?別にお菓子の名前当てクイズはしていないよ? 後輩の言葉に返事くらいはしないと駄目だと思うよ?」 いやいやバサ姉。 いいじゃない別に。 当人の由比ヶ浜さんだって楽しそうじゃない。 まあでも。 そうね。 大人げなかったです。 ちょっと突然話しかけられたので言葉に困ってこんな事言ってしまいました。 戦場ヶ原「朝ごはんをたくさん食べて来たから今は遠慮しておくわ。 ありがとう由比ヶ浜さん」 羽川「よろしい」 また羽川さんに一本取られてしまったと。 敗北感に苛まれて前に向き直る。 ふと、雪ノ下雪乃。 彼女が先ほどから開いている本が気になった。 私のよく知る本のタイトル、『ドグラ・マグラ』という文字が見えた。 いえ、特に話しかける気はなかったのだけれど。 誰にでもあると思うの。 こういう感情。 同志というべきか、方向性が同じ人間とは話がしたい。 特に、この手の趣味は年々人口が減る一方で。 見つける事すら難しいのかもしれないのだけれど。 63 ID:W7dhOgLT0 戦場ヶ原「好きなの?夢野久作」 雪ノ下「え?いえ、特にこの作家が好きだというわけでなく。 日本探偵三大小説と歌われているので気になって……」 多少なりとも安心したのは否めない。 もしかすると会話そのものを無視されそうな、それほどまでに周りに否定的な雰囲気を醸し出していたからだ。 しかしながら思ったよりの長文が帰って来たという事は。 この子も話をしない気はないのだと感じた。 戦場ヶ原「三大小説ではなく、三大奇書ね。 とても奇妙で異様で怪奇的で懐疑的な小説。 読破すれば精神が病むとまで言われる物よね」 雪ノ下「よくご存じですね。 特に私は後半の部分。 『読破すれば』のくだりが気になって読んでいます。 質問から察するに、戦場ヶ原先輩は夢野久作がお好きなのですか?」 戦場ヶ原「ええ。 まあ私も、だからといって彼の作品だけ読むわけでもなく。 広く教養は積んでいるつもりなのだけれど」 雪ノ下「ええ、でも最近は多くはないですよね。 本当の意味で読書が趣味の人」 戦場ヶ原「そうなのよ。 後ろの羽川さんだって読んでいるのだけれど。 趣味というわけではないし……。 『その後ろの阿良々木という人は程度の低い物しか読まないし』」 阿良々木「聞こえているぞ戦場ヶ原……。 僕を勝手にそんなキャラ付けするな!」 戦場ヶ原「事実ほど否定したがるものよね。 67 ID:W7dhOgLT0 閑話休題。 話を戻しましょう。 雪ノ下「まあ、でも。 この作品は確かにそう批評される程度はありますね。 ちょっと気分が悪くなってきます」 戦場ヶ原「乗り物酔いの可能性もあるから一概にはそうとは言えないわね。 でも、私も3回しか読めなかったわ」 雪ノ下「3回も……。 お好きなんですね。 夢野久作」 戦場ヶ原「いえ、一度読むと分かるのだけれど。 その作品、意味が分からないのよ。 ジャンルは探偵小説なのだけれど、実際的に私たちが物語の真相を探偵するような感覚になるのよ」 雪ノ下「その言葉を聞いて益々楽しみになりました。 今度お勧めの作品があれば教えていただきたいですね」 戦場ヶ原「奇書を進められたいって。 結構奇特なのね」 雪ノ下「夢野久作のお勧めを聞いたはずなのですけれど」 戦場ヶ原「ああ、そっちね。 それは是非とも聞いてちょうだい。 55 ID:W7dhOgLT0 羽川「え?戦場ヶ原さん。 私との議論は不満だったのかな?」 戦場ヶ原「あら。 いえいえ羽川さん。 確かに貴方とも議論できたことは嬉しかったのだけれど。 羽川さんの解釈って、参考書のような、なんていうか。 辞書のような感じだったのよ。 もう少し、いや、少しでも主観が入った解釈も聞きたいかなと思っただけよ」 羽川「なんだかひどい言われようをしている気がするのは気のせいかな」 気のせいよ。 由比ヶ浜「それ面白いの?私も読んでみようかな」 羽川「辞めた方が良いよ」 戦場ヶ原「辞めた方がいいわね」 雪ノ下「辞めた方がいいわよ」 由比ヶ浜「声をそろえて言われた!なんか酷い!」 思った以上にバス移動の間が短く思えた。 夢野久作の話の後も、髪のトリートメントの話だとか。 勉強の話だとか。 意外と盛り上がってしまった。 盛り上がった。 といっても、私も雪ノ下さんも淡々と会話していただけなのだけれど。 内容的にはガールズトークだったかしらね。 72 ID:W7dhOgLT0 05 というわけでこの話数も終わり。 最後は再び僕が、阿良々木暦が語る事にしよう。 そうしてこうして、バスは目的に到着。 事故もなく渋滞もなく時間通りだった。 降りてからは今日のメインイベント。

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#14 俺ガイル 最初からやり直したい関係(雪乃)

俺ガイル ss 破局

奉仕部の関係性です。 3人の今の間柄を見てみればわかると思いますが、どこか筋が通らない、ギクシャクというほど悪くはないですが、3人ともが本当の自分たちの関係ではなく、比企ヶ谷の言う「欺瞞 偽物 」の関係なのです。 その「欺瞞」を超えた先にある真の関係、それが「本物」です。 欺瞞について解説しておきますと、まずは比企ヶ谷。 比企ヶ谷は由比ヶ浜が自分のことを好きなのではないか?と薄々気づいています。 それを過去のトラウマetc... な理由で気づかないフリをしています。 雪ノ下に対してもどう接すればいいのかわからないでオロオロしていますね。 彼女の家族関係に首を突っ込むべきかなどなどです。 雪ノ下。 彼女の場合は比企ヶ谷への気持ちでしょう。 雪ノ下は比企ヶ谷に対していい印象を抱いています。 それは自分では解けない問題を解いてしまう、正確に言えば問題自体を無くしてしまう。 雪ノ下はそんな奉仕部としての依頼をうまく対処してしまう比企ヶ谷に憧れているんです。 だから彼女の家族関係について比企ヶ谷に頼ろうとするんですね。 他にも彼女が比企ヶ谷に恋をしているのかは正確にはわかりませんが、もしそうなのであればやはり由比ヶ浜の事を気にかけるでしょう。 彼女は由比ヶ浜を大切な友人と思っており失いたくはないですから。 由比ヶ浜。 彼女は上記2人とは別です。 彼女はあえて「欺瞞」の関係こそを求めているんです。 アニメ最終話。 彼女が2人にはなし、比企ヶ谷に否定されたのがそれです。 どういうことかと言いますと、由比ヶ浜は雪ノ下が比企ヶ谷の事を好きなんだと思っているんですね。 自分も比企ヶ谷が好き。 でも比企ヶ谷と自分が付き合うと雪ノ下だけ仲間はずれになってしまう。 そんなことは彼女にとって嫌だ。 だから由比ヶ浜は「比企ヶ谷と付き合いたい、でも雪ノ下とも友達のままいたい」そういう願望 欺瞞 を求めたのです。 上記の全てが解決する3人の関係性、それが「本物」です。

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#14 俺ガイル 最初からやり直したい関係(雪乃)

俺ガイル ss 破局

【体型】 いろは「せんぱいせんぱい」 八幡「ん?」 いろは「せんぱいってやたら細い割にまあまあ食べるじゃないですか~。 ダイエットとかしてるんですか?」 八幡「いや、してないけど」 いろは「へー……」ギュッ 八幡「おい、なぜ俺の腰をつかむ」 いろは「うわー……ほっそ……やば……」ナデナデ 八幡「おい撫でまわすな変態。 ていうか目が怖いんだが」 いろは「いいな~……先輩の腰……」ウットリ 八幡「……もし、俺が太ったら?」 いろは「切ります」 八幡「え」 いろは「切ります」 八幡 食事制限するとかじゃないんだ…… 【前髪】 いろは「ただいま~」 八幡「おう」ペラ、ペラ いろは「ねーねーせんぱーい」 八幡「……」ペラ、ペラ いろは「せーんぱいっ」 八幡「……」ペラ、ペラ いろは「……」セナカドンッ 八幡「……あ?」 いろは「せんぱいの可愛い彼女が髪を切ってきたんですけど?超かわいくなったんですけど?」 八幡「…………はあ?」 いろは「あ?」 八幡「…………馬鹿、お前が可愛いのなんて前から知ってんだよ。 いちいち報告すんな。 これ、八幡的にポイント高い」マガオデハヤクチ いろは「ちょ、普通に気持ち悪いんでそういうの無理ですやめてください」ヒキー 八幡「り、理不尽……」 いろは「……ていうかせんぱいそういうこと言ってからちょっと赤くなるのやめて下さいよ……私まで照れるじゃないですか」ボソッ 八幡「お、おう……」テレテレ いろは「……なんか二人してニヤニヤしちゃうのキモいですね」テレテレ 八幡「ちょっと、ベランダでタバコ吸ってくる……」 いろは「は~い」 八幡 あいつ可愛すぎだろ。 可愛すぎだろ カチ、シュボ、スパー いろは せんぱいかわいすぎでしょ…… 【コンビニ】 八幡「おい、いつまでアイス見てんだよ」 いろは「んーもうちょっと待ってください。 とくんが私の中で戦っているんです……」 八幡「そんなのブラモン一択だろ」 いろは「真面目に考えてるからせんぱい黙って」 八幡「お、おう……」 いろは「……」 八幡 いつになく真剣な顔をしてやがる いろは「……まとまりました!」 八幡「おう。 で、どっちだ」 いろは「どっちも買います!」 八幡「……その心は?」 いろは「せんぱいと食べさせ合いっこできるかなーって。 ……どーですか、グッときました?」ニヤニヤ 八幡「……よし、二つとも買ってどっちも俺が食べる」 いろは「えー。 ちょ、せんぱーい」 八幡 あざとすぎて何もグッとこないんだよ。 まったく、あいつは成長しない ニヤニヤ 店員「……あ、224円です」ヒキ 八幡「はい」キリッ 八幡 ただ、あんなのでにやついてしまうくらい俺がちょろくなってしまったというだけの話なのだ 【お酒】 いろは「せんぱーい。 と金麦ありますけどどっちがいいですかー?」 八幡「金麦」 いろは「は~い。 ……どーぞ」トテトテ 八幡 いろは「それじゃあ、今月もお疲れ様でした。 んっ……ぷはぁ」 八幡「……」ゴクゴク いろは「いただきま~す」 八幡「……」ゴクゴク,プハア いろは「せんぱい飲みきるの早すぎですって……。 自分で取ってきてくださいね」 八幡「おう」 いろは「おいし」モグモグ いろは たまにしかやらないけど先輩の料理って好きだなぁ……さすが志望 モグモグ 八幡「よっこいせ」プシュ いろは「せんぱいっては金麦ばっかりですよね~。 それ苦くないですかー?」 八幡「この苦さが癖になるんだよ。 ……大人の味ってやつだな」 いろは「……うわ、今ちょっと自分のことかっこいいとか思ってませんでした?……超やばかったですよ?」 八幡「かっこよすぎてヤバいってことだろ、ヒッキー知ってるよ」 いろは「せんぱい、お酒のむとちょっと調子乗りますよね……私の前でだけだからいいけど」 八幡「そりゃ、俺の飲む相手ってお前くらいだからな。 あと平塚先生か、バイト先」 いろは「最近はたま~にゼミの飲み会にも行ってるみたいじゃないですか」 八幡「教授も行くときだけな」 いろは「せんぱいは浮気の心配ないからいいですね」ニッコリ 八幡「本人に向かって言うことじゃないだろそれ……浮気してやろうか」 いろは「できるものなら。 せんぱい、私のことだーいすきですもんね?」 八幡「何言っちゃってんのお前……お前もたいがい酔うと調子乗るよな……」 いろは「えー大好きじゃないんですか~?」 八幡「はいはいすきすき」 いろは「適当だな~。 見てるだけで癒されるっていうか~」 八幡「……ああ」 いろは「このハムスターとか見てくださいよ~。 ほら、こーんなに可愛いんですよ」 八幡「そうだな」 いろは「ね、だから飼いましょう?」 八幡「だから言ってるだろ、お前だけで全部世話をするなら買ってもいいって。 何時間同じこと言わせんだよ」 いろは「だからそれが無理かもしれないから先輩にも聞いてるんですけど?」 八幡「……俺は四月からは就職するし、それは厳しいかもしれないって言ってるだろ」 いろは「……だめですか?」 八幡「お前一人でも世話できるなら買えよ」 いろは「分かりましたよー……諦めます。 ……せんぱいと一緒に育てたかったのに」 八幡「……あのな、お揃いのマグ買うような気持ちで生きもの買おうなんて言ってんじゃねえぞ。 本当に」 いろは「そうですね……。 浅はかだったかもです。 ……すみません」シュン 八幡 一色は子犬のようにうなだれてしまった。 少し言い過ぎたかもしれない。 それにこいつは、こういうことを言われないと分からないほど軽薄な人間でもない。 何か、不安になっているのかもしれない 八幡「……いつか一緒に子ども育てるだろ、俺とお前は」ボソッ いろは「え」 八幡「何でもない。 帰るか」 いろは「ちょせんぱい、わんもあ!今の台詞もう一回言ってください!録音していつか裁判になったときに使いますから!」 八幡「どうしてすぐにそういうこと言っちゃうかなお前……八幡的にポイント低い」 八幡 彼女が耳まで真っ赤にして腕に抱きついて、何やらうるさく言ってくる。 それを聞き流しながら、俺は今日の晩飯について考えていた 八幡 ……そして、いつかそうなったらいいと考えている将来についても、少しだけ思いを馳せた 【温泉旅行】 八幡「はあ……気持ち良かった……」 八幡 温泉ヤバい。 何がヤバいってもう全部ヤバい。 あんなに気持ちよくてしかも体にもいい。 信じられないことに病気とかにも効くらしい。 とにかく温泉はヤバい。 俺将来は絶対温泉旅館で働こう……花咲く八幡 いろは「うわーかつてないほど先輩が緩みきった顔してる……でもここの温泉すごく気持ちよかったですね~。 せんぱいのチョイスに任せて正解でした」 八幡「グーグル先生に聞きまくったからな。 旅行で一番大切なのはプランニング、その次に大切なのは実際に行ったときにガッカリしない程度にハードルを下げておくことだ」 いろは「相変わらず前向きなのか後ろ向きなのかよく分からない発言ですね……。 ごはんも食べたし、もう寝ます?」 八幡「んー」 いろは 目を薄く閉じてゴロゴロしてる……猫みたい。 もしくは休日のお父さんみたい 八幡「……そういえば、川沿いに灯篭を並べてるってさっき仲居さんが言ってたぞ。 散歩でも行くか?」 いろは なんか今ちょっとせんぱいわざとらしい感じだったような……。 そういえば、って言う準備をしてたような感じ いろは「へーいいですね。 温泉までは珍しくちょっとはしゃいでたのに トテトテ 八幡「……」カチ、シュボ、スパー いろは いつもと同じようにセブンスターを口にくわえるせんぱいの横顔が灯篭にぼんやりと照らされて、何故かその姿は今にも消えてしまいそうにとても儚く見えた 八幡「……あのな」 いろは「はい」 いろは 何故か少し緊張してしまう。 変なの 八幡「付き合って半年くらい経ったな」 いろは「そうですね」 八幡「……ありがとうな。 これからもよろしく頼む」 いろは「……えっ」 八幡 一色は猫みたいに目を丸くしてこちらを見ていた。 ……こっちはこれを言うために旅行来たまであるんだが スパー いろは「ちょ、ちょっと待ってください……熱でもあるんですか?」 八幡「なんでそうなるんだよ」 いろは「だってなんか、なんか……意外すぎて」 八幡「俺が素直に気持ちを言うことがか?」 いろは「うわ、もう素直な気持ちとか言わないでください!怖い!」 八幡「……なんだよそれ」 いろは せんぱいは拗ねたように夜空を見上げて、煙を吐き出した。 暗い空に白い煙がうっすらと広がっていくそれは、とても綺麗だった いろは「……泣いてもいいですか?」 八幡「あざとい泣き真似じゃなければな」 いろは「……あは」 いろは ねえせんぱい。 幸せすぎて泣きそう、だなんて。 そんな綺麗な気持ちがこの世に本当にあるだなんて、私は知りませんでしたよ いろは「せーんぱい、こっち向いてくださいよ」 八幡「……」 いろは まだ拗ねてるような顔で、先輩は私を見た いろは だから私はその先輩の唇に私のそれを重ねた。 きっと初めてにしては合格点がもらえるくらいには、それは自然なキスだった 八幡「……っ」カアア いろは せんぱいの頬がみるみる赤くなっていく。 まるで桜の花びらみたい。 だから私は、少し煙草の苦みを感じる唇に素直な言の葉をのせた いろは「せんぱい、だーいすき」 いろは これを言った時には私も恥ずかしすぎて先輩の顔を直視できなかったのは、ここだけの内緒の話だ 【料理】 いろは「せんぱーい、ちょっと。 かむかむひあひあ」 八幡「……なんだよ、今コナン君が推理を喋ってる最中なんだけど」テクテク いろは「そんなことよりはい、味見して下さい。 シチューです」 八幡「そんなことよりってお前。 一瞬で気絶させるような命に関わる強い麻酔を打たれ続ける小五郎さんの気持ちがお前に分かるのかよ、そんなことだなんて言うな」 いろは「なんでちょっと小五郎さんに感情移入してるんですか……めんどくさ。 それよりはい、あーん」 八幡「ん。 ……いいんじゃねえの、美味いぞ」 いろは「よかった~。 でもせんぱいって何を作ってもそれだから、あんまり張り合いがないですよね」 八幡「いちいち文句言われるよりいいだろ」 いろは「それはそうですけどね」 八幡 一色は鼻唄まじりの慣れた手つきで料理を完成させていく。 もともと要領のいい人間なので、あまり失敗するところというのを見たことがない いろは「よし、できましたよー。 シチュー、どのくらい食べます?」 八幡「大盛りで」 いろは「はーい」 八幡 一色は大盛りいっちょ~なんてラーメン屋みたいに言いながら、シチューを皿いっぱいまで入れた いろは「はいせんぱい」 八幡「おう」 いろは「追加で大盛りいっちょ~」 八幡 自分の分をよそっている一色の後姿を見ていて、ふと思いついた 八幡「なあ、まだ高校の制服って残ってるか?」 いろは「え、どうしたんですか。 多分実家にあったと思いますけど……えっちの時に着てほしいんですか?」 八幡「いや、制服を着てエプロンつけて料理をつくってほしい」 いろは「……」 八幡「なんだよその顔」 いろは「…………ドン引きしている表情です」 八幡「……分かったよ、もう言わん」 いろは 表情こそあまり変わらなかったが、先輩はしょんぼりしたようにシチューをとぼとぼとテーブルに運んだ いろは「……もう、仕方ないなぁ。 せんぱいは。 交換条件です」 八幡「え?」 いろは「せんぱいも制服きて、部屋の中でいいですから制服デートしましょうよ」 いろは せんぱいは「等価交換の法則か……」なんて、よく分からないことを呟きながらも頷いた いろは せんぱいの好きな食べものや嫌いな食べもの、好きなプレイに嫌いなプレイでも何でも。 これからたくさんのことを知っていきたい いろは そんなことを考えながら、今日も二人で手を合わせる 八幡「いただきます」 いろは「おあがりください」 いろは 好きな人が私の目の前で美味しそうにごはんを食べてくれる。 こんな日々が続けばいい、なんて思いながら 【髪の毛】 いろは「……はあーきもちー」 八幡「……」 八幡 風呂からあがったばかりの一色の髪をドライヤー乾かしている。 一緒に見てたクイズ番組で負けた罰ゲームだ いろは「あ、もっと優しくやってくださいね。 気持ちを込めて日ごろの感謝を伝えられるように丁寧にやってください」 八幡「……はいよ」グシャー いろは「うわぁあ!?何するんですかぁもう」 八幡「いや、なんかイラッとくる表情だったからつい」 いろは「もー……ちゃんとせんぱいの指で梳いてくださいね」 八幡 八幡 髪を指で流すように動かす。 茶色がかったその髪はオレンジのライトに反射してきらきらと光っていた 八幡「……」 八幡 何かとても綺麗なものに触れているような気がして、少し鼓動が早くなる いろは「ん、せんぱいの指きもちー。 ずっとこうされてたいです」 八幡「……そしたらそのうちハゲるぞ、お前」 いろは「あは、それもそれでありかな~って」 八幡「なしだなし。 俺がもたん」 八幡 腕の体力とか、あと理性とか いろは「終わったら頭なでてー」 八幡「……ん」ナデナデ いろは「ちゅーしてー」 八幡「…………ん」チュ いろは「えっちしましょー」 八幡「おやすみ」 いろは「せんぱーい、そんなお預けないですよ~」 八幡「明日の仕事、何時起きだと思ってんだよ。 寝るぞ」 いろは「もー……」 八幡 一色は拗ねたような顔でドライヤーを片づけている 八幡 だが、俺だってやりたかった。 すぐに終わるなら。 だけど、確信があった。 、大学四年。 、三年の夏。 八幡「……」カチ、シュボ、スパー いろは「ちょ、着いてそうそう一服し始めないでくださいよ」 八幡「いいだろ、こっちは運転で疲れたんだよ」スパー いろは「もー……。 それにしても夜の海って、なんか少し怖いですよね。 吸い込まれそうっていうか」 八幡「だな。 しかし夜の海を眺めながら缶コーヒーと一緒にやる煙草は特別に美味しいからアレだ」スパー いろは「ふーん、そういうもんですかー。 男の人のそういうのっていまいち共感できないんですよねー」 八幡「だろうな」スパー いろは「……花火します?せっかく買ったんだし」 八幡スパー 八幡 一色はごそごそと袋から花火を取り出して広げた いろは「せんぱいせんぱい、ライター」 八幡「はいよ」 八幡 一色はライターを受け取ると花火に火をつけた。 カラフルに光るそれに横顔が照らされていて、綺麗だった いろは「せんぱいもしましょー。 はい」 八幡 吸い終わった煙草を携帯灰皿に入れて、花火を受け取る。 火をつけると、音を立てて燃え始めた いろは「ねーねーせんぱい、今から花火で文字書くから見て当ててください」 八幡「はぁ。 ……分かった」 八幡 あまりそういうバルのようなことは好きではないが、頷いてしまった。 夏の海の持つ空気にあてられてしまったのかもしれない いろは「いきますよー。 …………はい、分かりました?」 八幡「……」 八幡 分かったような気もするが、答える気にはならなかった いろは「もう、答えてくださいよ」 八幡「すき、だろ」 いろは「え?何て?せんぱい何て言いました?」 八幡「……お前って本当に腹立つよな」 いろは「そんなに褒めないでくださいよ~」 八幡「……今度は俺が書くから、見てろよ」 いろは「はーい」 八幡「…………ほい」 いろは「」 八幡「正解だ。 …………ほいよ」 いろは「こまちあいしてる」 八幡「やるな。 ……ラスト」 八幡 空中に少し早く文字をつづっていく。 分かるだろうか いろは「……んーちょっと分からなかったです。 もう一回書いてください」 八幡 照れたようにはにかみながら、一色は要求してきた。 こいつ、絶対に分かってやがる 八幡「もうやんねえよ」 いろは「えーケチ~」 八幡「うっせ」 八幡 夏の夜空にはたくさんの星が浮かんでいた。 結婚を一か月後に控えた二人。 、24歳。 、23歳。 も大学を卒業し、二人で同棲している東京のアパート。 いろは「あの、どういうことですか……。 先輩、嘘をついてたんですか?」 八幡「嘘じゃなくて、言う必要がなかったから言わなかっただけだ」 いろは「なんで言う必要がないんですか……女の子と二人きりで飲んだんですよね?しかも、雪ノ下先輩と。 平塚先生と飲む、っていうのは嘘だったんですか」 八幡 一色は笑っていた。 だがそれは、今にも泣き叫びそうな危うい笑みだった 八幡 あの日、俺と雪ノ下がバーに入っていくのを見た一色の同級生がいたらしい。 今日、一色は高校の同窓会に行っていた。 そのときに俺と付き合っていることを聞いた女子がその目撃者らしく、一色はその子から聞いたそうだ 八幡 なぜ言わなかったのかは、自分でもよく分からない。 ただ、話す気にはなれなかった。 それくらい特別なことだったんだ、あれは。 俺にとって 八幡 だが、今のこのまはなんだ。 俺のそんなくだらない感情で一色を傷つけている。 今にもその大きな瞳から涙がこぼれそうになっている 八幡 なら、全てを話そう。 俺たち奉仕部に何があったのか。 俺が何を考えてどういう選択をしてきたのか。 そしてあの日、雪ノ下と何を話してどう思ったのか。 それが今できる最善手であり誠実な対応であるように思えた 八幡 思えば、話すタイミングはこれまでにいくらでもあった。 いつかは話さなければいけないことでもあったと思う。 一色が聞かないのをいいことに、その甘さに付け込んでいただけなのだと自覚した。 何だ、それは。 自分自身が気持ち悪くて吐き気がする 八幡 一色はきっと、俺が話してくれるのをずっと待っていたのに 八幡「あのな、一色。 聞いてくれ」 いろは「嫌です」 八幡「一色!」 八幡 初めて一色に対して大きな声を出した。 彼女は驚いたように体を震わせて、雫のたまった瞳をこちらに向けた いろは「ごめんなさい、ちょっと一人にしてください。 お願いします。 お願いします……」 八幡 制止することもできないほど、今にも壊れそうな表情だった。 一色は逃げるようにアパートを出ていき、後には時計の秒針を刻む音だけが部屋には残されていた 八幡 ソファーに深く座り込んで、長い息を吐く。 何をしているんだ、早く追いかけろ。 そう命令しても、足は動かなかった 八幡 全てを話しても、許してもらえなかったら。 それが決定打になり、このまま終わってしまったら。 とにかく少しでも離れたかった。 あの場所から。 あれ以上せんぱいを目の前にしていると、とても醜い言葉があふれ出しそうだった いろは 思えば私は、そのことについてずっと不安に思っていたのかもしれない。 それは私には踏み込めない領域だったから。 あの頃の奉仕部は、特別で触れられないものだったから いろは 来たばかりの電車に飛び乗って、適当な駅で降りた。 自分でも何がしたいのか分からなかったが、とにかく今は確実に一人になれる場所で少しでも冷静になりたかった いろは 繁華街を歩いて、目についた喫に入った。 カンブラックを一つ頼み、息を吐く。 だが冷静になろうとすればするほど、頭の中がぐちゃぐちゃになるようだった いろは ふと前のテーブルを見ると、どこかで見たことがあるような後姿があった。 とにかく連絡をして、一色と会わなければいけない 八幡 こんなことで別れてたまるか。 こんなことで諦められるくらいなら、初めから付き合うこともしない 八幡 なんとか連絡を取ろうと、を取り出す。 指先が震えて、暗証キーを何度か間違える 八幡 何度か誤操作をしながらもなんとか一色の連絡先を呼び出し、電話をかける。 久しぶり」 いろは「ご無沙汰してます」 いろは ただ以前と違うのはその隣に三浦先輩がいて、二人の薬指には同じ指輪がきらりと光っていた 優美子「まさかこんなところで会うなんてね」 葉山「だな。 ビックリしたよ」 いろは「わたしもです。 そういえば、お二人が結婚していることもこの前聞きました。 お祝いの言葉が遅れてごめんなさい。 ……おめでとうございます」 いろは とても自然にその言葉が出てきたことに我ながら少し驚きつつも、私は笑っていた。 お似合いの二人だと思う いろは そのくらい二人の表情や空気、仕草はとても柔らかく、自然なものだった 葉山「ありがとう」 三浦「サンキュ。 てか隼人、これ言われるたび照れるのやめてよ、もう」 いろは 三浦先輩まで少し照れたように葉山先輩の頭を小突いた いろは「あは、お二人ともなんか可愛いです」 三浦「こら、からかうなし」 いろは「すみません」 いろは 頬を赤くして文句を言ってくる三浦先輩が可愛くて、思わず笑ってしまった 三浦「もう。 ……てかあんた、なんか目が赤くない?大丈夫?」 いろは「え、大丈夫ですよ。 さっきちょっと目にゴミ入っちゃって」 三浦「ふーん……」 いろは 三浦先輩は私の全体を観察するようにじろじろと見まわし、葉山先輩の肩を叩いた 三浦「私ちょっと出てくるから。 隼人、話聞いてやんな」 いろは「え?」 三浦「部活の後輩だったんだし、力になってあげて。 任せたよ」 隼人「ああ、分かった」 いろは「え、あの」 いろは 二人はとても自然な様子でそう言って、私が止める間もなく三浦先輩はお店を出ていった 隼人「じゃあ、聞かせてくれ。 ……いろはは本当に好きなんだな、比企谷のこと」 いろは 葉山先輩はぽつりとそう言って、笑った。 私はしゃくりあげながらも、黙ってそれに頷く 隼人「じゃあ、いろはが今するべき行動は一つだけだな。 でもそれはいろはも分かっていると思う。 ……だからとりあえず、泣きやむまでここにいるよ。 悪いけど、俺に手伝えることはなさそうだ」 いろは 葉山先輩は悪戯っぽくそう笑って、コーヒーに口をつけた いろは 久しぶりに触れる葉山先輩の優しさに心が満たされていくのを感じる。 それは今の私にとって、何よりも力強い薬だった いろは ふと、葉山先輩に振られた頃のことを思い出す。 あの頃の私は自分が振られてしまったショックで泣いていた。 もともと勝算が薄かったのは知っていたのに いろは そしていつからかその記憶には蓋をするようになり、胸はあまり痛まなくなっていた。 所詮初恋なんてこんなものだなんて、冷めた目で自分を見る私にも気づいていた。 そうして自分の心を守っていたようにも思う いろは せっかくお嫁さんと二人でデートをしていたのに、突然現れた邪魔者にも優しく笑いかけて、助けようとして いろは ああ、どうして忘れていたのだろう いろは こうやって、誰にでも優しくて。 人の心を気遣って、気遣って。 そうやって誰のことも見捨てられなくて、がんがらじめで動けなくなって いろは たまに凄く苦しそうな表情を見せて。 だから私がそれをほどきたいって。 ほどける存在になりたいって いろは そういう風に、私はこの人を好きになったんだ いろは そうだ、きっと私のあの初恋は何も間違っていなかった。 たしかに本物だったんだ。 全然、「恋愛ってこんなものなのかな」じゃなかった。 こんな葉山先輩のことが、私は本当に好きだったんだ いろは「あ……」 いろは 気づけば、頬からまた大粒の涙が伝っていた。 それを見て葉山先輩はハンカチを差し出しながら、優しく笑う 隼人「早くふきな。 こんなところ比企谷に見られたら、俺が殴られそうだしね」 いろは 葉山先輩の目が笑っていた、小さい男の子みたいに。 きっとそれが、本来の葉山先輩が持ちあわせているものなんだと思う いろは それを見て、本当に嬉しく思っている自分に気づく。 きっと、三浦先輩がほどいたんだ。 ほどけたんだ、葉山先輩を いろは それが少しだけ切なくて、心から嬉しい いろは そして同時に、私がどれだけあのちょっと意地悪なせんぱいのことが好きなのかを自覚する いろは「……葉山先輩。 ありがとうございました。 もう、大丈夫です。 先輩に連絡してみます。 あの捻くれためんどくさい堅物と、絶対に仲直りしますから」 いろは 私が冗談めいて毒を吐くと、葉山先輩は驚いたように目を張った後、楽しそうに笑った 隼人「ああ。 ……いろはは本当はそういう笑顔ができたんだな。 今のいろはならきっと、大丈夫だと思う。 頑張れ」 いろは「はい、頑張っちゃいます。 それじゃあ葉山先輩、本当にありがとうございました。 三浦先輩にもお伝えください。 ……ずっと、お幸せに」 隼人「ああ。 いろはも、比企谷と仲良くな。 ……元気で」 いろは「はい。 ……さよなら、葉山先輩」 隼人「さよなら、いろは。 ……頑張れ」 いろは 喫を出た。 騒々しく街並みを歩く人々とすれ違いながら、駅に向かう いろは そして、いつかの放課後を思い出す いろは『葉山せんぱーい、お疲れ様でーす。 また明日~』 隼人『ああ、お疲れ。 いろは、また明日』 いろは また明日、って笑って手をふっていたあの時の二人はもうどこにもいない。 目が合うたびに頬が赤く染まって、その度に夕陽のせいだってごまかしたりした私はもういない いろは でもあの時の空の色や空気の匂い、サッカーボールの手触り、遠くから聞こえる部の演奏はきっと、いつまでも私の心に残り続ける いろは そして思い出すたびに痛みと愛しさを感じさせてくれるのだろう いろは ああ、早くせんぱいに会いたいなぁ いろは 自然とそう思った。 を起動すると、せんぱいからの不在着信がいくつも溜まっていた。 すぐにコールバックする いろは すぐに出るかな。 出てくれるかな。 出たらまず、なんて言おう。 怒ってごめんなさい?もう許します?どっちも違うような気がした いろは そうだ、こんな気持ちのときに紡ぐ言葉なんて一つに決まってる。 、社会人四年目。 いろは 「おめでとうございます」とお医者さんに言われた時、私の頭の中は真っ白だった いろは ていうか、何を言われているのか分からなかった いろは そして、「三ヶ月目です」とお医者さんは続けた。 私のお腹の中には三ヶ月も誰かがいたらしい いろは じわじわと驚きがやってきて、嬉しさがやってきて。 八幡、食後の一服中 いろは「旦那さん、旦那さん」 八幡スパー いろは「ご報告があります」 八幡「おお」スパー いろは 旦那さんはテレビをぼんやりとした表情で眺めていた。 画面の中では若手らしい芸人が何事かを叫んでいる いろは「赤ちゃんができました」 八幡「ん。 ……え?」 いろは「私たちの赤ちゃんが、できたようです」 八幡「……」 いろは 旦那さんは煙草を手にしたまま固まった。 その目は大きく見開かれて、よく分からない顔でこちらを見つめていた 八幡「……あっつ!」 いろは いつの間にか煙草の火がフィルターを焦がすところまできていたことにも気づかないくらいには、私たちは固まっていたらしい。 慌てたように旦那さんは灰皿に煙草を押しつけて火をもみ消した 八幡「……本当か?」 いろは「今日、病院に行ってきました。 三ヶ月だそうです」 八幡「そうか……」 いろは 旦那さんは一つ頷くと、俯いてしまった。 そのまま床を見つめて、なかなか顔を上げてくれない いろは もしかして嫌だったのかなと思い、不安になる いろは「あの……どうしました?」 八幡「嬉しいだけだから、気にすんな」 いろは「そうですか」 いろは そう言う旦那さんの声はたしかにうるんでいて、私も泣きそうになる 八幡「そうか……そうか」 いろは「はい」 八幡「じゃあもう、やめるか」 いろは 旦那さんはそう言って、まだたくさん入っている煙草の箱をゴミ箱に入れた いろは「え、いいんですか」 八幡「もう必要ないしな。 ……いや、とっくに必要はなくなってたのを惰性でダラダラと吸い続けてただけだ。 やめるにはいい機会だろ」 いろは「旦那さん……。 なんかちょっとキュンときたんですけど」 八幡「アホ、照れるからそういうのは声に出さないでいい」 いろは「は~い」 八幡 いろははクスクスと笑うと、俺の隣に座った いろは「パパですよ」 八幡「お前はママだな」 いろは「そうですね……ママって呼びます?」 八幡「嫌に決まってんだろ……誰が呼ぶか」 いろは「えーなんかいいじゃないですかー。 お互いのことをパパとママって呼ぶの」 八幡「俺がそういうこと言っちゃう人間じゃないのは知ってんだろ」 いろは「まあそうですけどね~」 八幡 いろはは俺の肩にもたれかかって、耳元で呟く いろは「旦那さん」 八幡「何だよ」 いろは「……ふふ、なんでもないです」 八幡「……あっそ」 八幡 少しくすぐったくて、とても甘くて。 幸せで 八幡 俺はこの女のことが、本当に好きなのだと実感する。 これからももっともっと好きになって、大切になるのだろうと思う。 これは予言だ、的中率100パーセントの予言だ 八幡 いろはは俺の肩に頭を預けて目を閉じている。 一色はその男二人がいないものであるかのように、携帯を触り続けている 男1「おい何調子乗ってんだよ」 男2「こっち見ろやアアン!? 」 いろは「……」ポチポチ 八幡 男二人が凄んで見せるも、なおも一色は携帯を触り続けている。 そのメンタルちょっと俺にも分けてください 八幡 なんにせよこれ以上はマズイと思い、声をかけることにした 八幡「おい一色、帰るぞ」 一色「……」ポチポチ 八幡 えーなんで俺のことまで無視してんのこいつ。 いないものとして扱われた中学のときの記憶がチラつくからやめよう 男1「お兄さん、ダメっすよこいつ。 なんか調子乗ってるっていうか」 男2「ああ、ブスのくせに勘違いしてるパンだわこれ。 お兄さん暇なら俺らと一緒にナンパする?」 八幡 何故かナンパ男たちが俺を仲間にしようとしてきた。 一色は驚いたような表情をしていたが特に文句を言うこともなくついてきた 男1「はあー何それ。 おもんな」 男2「しけるわー」 八幡 男たちは文句を言いながらも追ってはこなかった。 態度こそデカいが、そんなに喧嘩をしたがる奴らではなかったらしい。 最近の省エネ主義のヤンキー、万歳 八幡「ったく、何やってんだよ」 いろは「すみません、せんぱいの姿が遠くから見えたのでちょっと反応を見たくて」 八幡「……本当に、何やってんだよ。 あのな、運がよかったからいいけどな。 お説教の前に言うことあるんじゃないですか?」 八幡「は?」イラ いろは「私、ブスじゃないですよねー?」 八幡「…………いや、もうブス。 相当なブス」 いろは「は?」イラ 八幡「あ?」イラ いろは「……私可愛いもん可愛いもん可愛いもん可愛いもん」 八幡「ブスブスブスブスブサイク」 いろは「はー?今日のご飯トマトしか出しませんよ?それが嫌なら可愛いって言ってください」 八幡「……ブッサイク」 いろは「可愛いって言っえっ」ポカポカ 八幡「あーはいはいかわいいかわいい」 いろは「……とてもですが、私の方が精神的に大人なので許します」 八幡 精神的に大人とか言うやつはほぼ間違いなく子供。 ソースは小町 いろは「今なにかイラッとすること考えませんでした?」 八幡「……こえーよ、お前のアンテナ。 カラオケ屋。 八幡 「珍しく二人とも全休ですし、カラオケでも行きません?」という一色の一声で俺たちはカラオケに来ていた 八幡 デートするにも映画や公園、海の多い俺たちにとってカラオケはとても珍しい。 一色は好きみたいだが、俺と二人で来るのは初めてかもしれない いろは「私飲みもの注いでくるんでせんぱい何か先に入れててくださーい」 八幡「ああ」 八幡 を操作し適当な曲を入れる。 高校の頃によく聴いていた曲だが、覚えているだろうか ピピッ 八幡 曲名が表示され、イントロが流れ始める 八幡 声をメロディに乗せる。 一色の方を見ると、なんとも言えない表情をしていた いろは「ちょ、ドヤ顔でこっち見ないでくださいよ。 ……なーんか無難というか普通に上手くてつまんないですねー」 八幡「はあ?完璧だっただろうが」 いろは「ラブソングなんですからもっと感情こめこめましましで歌ってくださいよー。 はい、もう一曲入れといたので歌ってください」 八幡「いやマジかお前」 八幡 もうすでにイントロが流れ始めていた。 さっきよりは感情的に歌ってみたが……一色の表情をうかがってみる いろは「……!」グッ 八幡「……」 八幡 一色は掌で目元を覆って泣き真似をしながらサムズアップしていた。 一色の反応を見てみる いろは「……なんかちょっと暑くないですか?」ハア、ハア 八幡 おもむろにカーディガンを脱いで胸元をパタパタしていた。 ……発情してやがる 八幡「アピールされてもカラオケなんかじゃ絶対やんねえからな」 いろは「ちょ、べ別にそんなんじゃないですし!本当に暑いだけですし!」 八幡 顔を真っ赤にして一色は否定してくる。 いや、お前ってムラムラしてるときのサイン結構分かりやすいからな? いろは「うー……だってせんぱいが悪いんですよう。 俺はカラオケでそういうことやる連中が嫌いなんだよ、知ってるだろ」 いろは「まあ知ってますけどー……。 いいこと思いつきました!」 八幡「はあ、なんだよ」 いろは「私が甘い曲唄ってせんぱいをその気にさせてみせます!なのでちゃんと聴いててくださいね」 八幡「はいはい頑張れ」 いろは「ぶーぶー。 適当だなー。 絶対させますからね!」 八幡「はいよ」 八幡 結果だけ言おう。 某繁華街のレストランの前。 いつもの軽口のたたき合い、じゃれ合いではなく本当にする手前の喧嘩だった 八幡 だが、どうにか仲直りをすることができた。 一色の言うところによると、葉山と三浦に助けてもらったらしい 八幡 雪ノ下と再会した日の話、お互いにずっと思っていたこと、考えていたこと 八幡 色々なことを話し合った。 その結果、一色は『結衣先輩にも会ってください。 会って、話してください』と提案した 八幡 今さらだ、一度逃げてしまった男がどの面を下げて『また会おう』なんて言えるのだろう 八幡 しかし、一色はこうも続けた。 『そんなの、一度フラれて好きな人に逃げられちゃった方がよっぽど言えませんよ』 八幡 たしかに、それはそうかもしれない。 だけど、どうだろう。 こんなのただの自己満足にしかならないんじゃないか 八幡 そう反論したが、『もし断られたり、返事がなかったら、それでもいいんです。 その方がいいかもです。 ……でも、ごめんなさい。 本当に、ただの私のわがままです。 結衣先輩とせんぱいを傷つけちゃうだけになるかもしれないです。 ……でも、嫌なんです』 八幡 怒ってもよかったと思う。 一色の言っていることは、明らかに論理が破綻していた。 結局、『私が嫌だからそうしてください』というだけの話だった 八幡 だが、怒れなかった。 一色が誰のためを思ってそう言っているのかは、伝わっていたからだ。 一色自身だって、少なからず不安に思うところはあっただろうに 八幡 がずっと俺のことを引きずっている、だなんて思い上がるつもりはない。 あいつもきっと幸せな今を過ごしているのだと思っているし、願っている 八幡 そこに俺が連絡していいのかという懸念はあった。 彼女もこちらに気づいたようで、軽く手をふりながら駆け寄ってきた。 まるで子犬みたいに 結衣「やっはろー、ヒッキー!久しぶり!」 八幡 ああ、変わらない。 だ 八幡「……おう、久しぶり」 結衣「うわー本当にヒッキーだー!……なんか、背ちょっと伸びた?」 八幡「全く伸びてねえよ、スーツ着てるからそれっぽく見えるだけじゃねえの」 結衣「あー、そうかも!」 八幡 はおかしそうにちょっと笑って、頭を下げた 結衣「会おうって言ってくれて、ありがとうね。 ヒッキー」 八幡「……こちらこそ、来てくれてありがとな。 ある程度、料理が運ばれてきた頃 結衣「ここのご飯、美味しいね」 八幡「ああ」 結衣「ヒッキーもこういうお店、使うようになったんだ。 大人になったんだね……」 八幡 しみじみとは言う。 親戚のおばちゃんかよ 八幡「まあ、そんなに来るわけじゃないけどな」 結衣「あはは、そうなんだ。 なんかでも、ヒッキーも社会人になったんだなぁって感じ。 ……ねえ、元気だった?」 八幡「ああ、元気だった。 ……お前は?」 八幡 ずっと料理や飲み物を行き来していた二人の視線が、やっと交わった 結衣「私は……元気じゃなかったかも」 八幡「…………そうか」 結衣「嘘だよ。 ゆきのんとか、周りの友達のおかげで元気になってきて……。 今は、毎日が楽しいよ!」 八幡 はいたずらに成功した子供みたいに笑った。 その笑顔を見て、それは嘘じゃないことを確認する 八幡「そうか、良かった」 結衣「うん。 ……前にね、ヒッキーがゆきのんと会ったっていうのはゆきのんから聞いてたんだ。 その時にね、聞いたよ。 いろはちゃんと、付き合ってるんだよね?」 八幡「ああ」 結衣「そっか。 ……ヒッキー幸せそうだったって、ゆきのん言ってた。 おめでと、ヒッキー」 八幡「……ありがとう」 八幡 彼女がどんな表情や気持ちでそれを言っているのか分からなくて、俺は思わず下を見てしまう 結衣「ねえ、ヒッキー。 不思議だと思うんだけどね。 ……それを聞いて私、本当に嬉しかったんだ。 泣くかと思ってたんだけどね」 八幡「……」 結衣「でも、本当に悲しい気持ちにはならなかったの。 ヒッキー幸せなんだ、よかったぁって。 うれしくて、うれしくて。 たはは。 そういう意味では、ちょっと泣きそうにはなったんだけど」 八幡 顔を上げると、は優しく微笑んでいた。 いつかのあの日と同じように 結衣「私ね、ヒッキーにフラれちゃってからいろいろ考えたんだ。 どうして私じゃダメなの、なんでって。 嫌なことばっかり考えた」 八幡「……」 結衣「ヒッキーのフった本当の理由が、分かってたのにね。 ……ゆきのんの気持ちに、私は気づいてたのに」 八幡「……」 結衣「……だから、ね。 あの……ね」 八幡 の表情が、大きく歪む。 その大きな双眸が涙でいっぱいになる。 眉尻を下げて、それでも笑おうとしたような顔で、彼女は言う 結衣「ヒッキーに、ごめんって、ずっと言いたかったんだ」 八幡「な……」 八幡 それを見て、やっと俺の口が動く。 その言葉は、胸からこみ上げる熱い何かで震えていた 八幡「何で、お前が謝るんだよ……?」 八幡 悪いのは、俺だったのに。 二人の気持ちから逃げてしまった、俺だったのに 結衣「だって、だって」 八幡「俺が逃げたのが悪いんだよ。 お前は、何一つ、悪いことなんかしなかっただろうが」 八幡 自分の好きだった相手に、想いを伝えただけだろうが 結衣「……私は、ゆきのんが一人になるかもしれないって分かってて、告白したんだよ」 八幡「それでもきっとお前はあいつを一人にするつもりはなかった」 結衣「何も方法は考えてなかったくせにね。 きっとそうなったらゆきのんは一人で、手の届かないところまで離れていくって知ってたのに。 ……それで結局、ヒッキーを一人にしちゃった。 ……だから、ごめん」 八幡「……」 結衣「ヒッキーが誰よりも、奉仕部の空間が好きだったのを知ってたのに、私が壊しちゃった。 ……だから、ごめんって言いたかったんだ」 八幡「……俺が一人になったのは、俺自身の問題なんだよ。 だから……もう、謝るな」 八幡 俺がお前から告白された時、どれだけ嬉しかったと思う?自分で決めた選択を、どれだけ後悔したと思う?嬉しくて、でも悲しくて、あの晩、どれだけ泣いたと思う? 八幡 だから……だから。 あの時のことを、言わなければよかったなんて、なかったことにしたいだなんて。 そんなことはどうか、どうか言わないでくれ 八幡 俺がこんなことを考えてはいけないのは分かっている。 思考それ自体が最低のものだ。 だが、そう思わずには、願わずにはいられなかった 結衣「……うん、分かった。 もう、謝らない。 でも、もう一つだけ言わせて」 八幡「……何だ?」 結衣「ありがとう、ヒッキー。 ずっと、ずっと、本当にありがとう」 八幡 彼女のその大きな目から、たまっていた涙が赤くなった頬を伝う 八幡 それは、いつだったかバーで見たのそれと、とても似ていた 八幡 記憶の中のはいつだって心から楽しそうに笑って、心から哀しそうに泣いていた。 そして周りの人間のことで本気で傷ついて、悩んで。 その純粋すぎる、優しすぎる心が故に 八幡 最後まで、決して言えなかったけれど。 奉仕部にが初めて来て、クッキーを作った話。 今思い返してもあれは不味かったと言うと、は「今は成長したんだよ!」って嬉しそうにを取り出してお菓子の写メを見せてくる 八幡 やっぱり変わらんと言うと、「食べてみたら美味しいんだから!」って少し怒った。 でも「美味しいよね……うーん」とすぐに首を傾げたりした。 どっちだよ 八幡 の話をすると「誰だっけ?……ああ!厨二!」と一瞬本気で忘れてやがった。 さんに謝ってください 八幡 戸塚に関しての話はとても盛り上がった。 主に俺が 八幡 葉山の話や、三浦の話や、川崎の話。 平塚先生の話。 夏のキャンプ、文化祭に体育祭、修学旅行、生徒会長選挙。 そして、と、奉仕部の話。 話題は途切れることはなかった 八幡 当時は辛いことも多かったはずなのだが、二人とも笑っていた。 とは顔を見合わせて、あの頃のことを笑って話していた 八幡 それはとても不思議で、とても嬉しいことで。 楽しい時間は早く過ぎるというのは、大人になっても変わらない 八幡「そろそろ、閉店の時間だ。 ……あのな、。 最後に一つだけ、聞いてほしいことがある」 結衣「え、何?」 八幡「あのな。 ……俺、来月に結婚するんだ。 一色と」 八幡 は大きく目を見開いて、ゆっくりとその唇に笑みを浮かべた 結衣「そうなんだ、おめでとう。 ヒッキー」 八幡「ありがとな」 結衣「式にはちゃんと呼んでよね。 ううん、呼ばれなくても行くから!ゆきのんとね」 八幡 悪戯っぽく笑いながら、はそう言った 八幡「……おう。 席、用意しとく」 結衣「お願いね」 八幡「ああ」 八幡 「じゃあ、出よっか。 」がそう言って、二人とも立ち上がった。 会計を済ませ、お店を出たところで立ち止まる 結衣「今度は、三人で会おうね。 ゆきのんも入れてさ。 ……ううん、三人だけじゃなくて、先生とか、さいちゃんとか、小町ちゃんとか、皆で会おうよ。 きっと、楽しいと思う。 その時はもちろん、いろはちゃんも連れてきてね。 いろんなこと聞きたいな~」 八幡「いいけど、あまり恥ずかしいこと聞くなよ」 結衣「あはは、手加減するよ。 それじゃあまたね、ヒッキー」 八幡「ああ、また」 結衣 遠ざかっていくヒッキーの背中を見ながら、私は少しだけ泣きそうな自分に気が付いていた 結衣 でももし今ここで彼の背中を見ながら泣いちゃうと、二度と私はヒッキーに笑って会えない気がしたから、なんとか押し込めた 結衣 次にヒッキーと会ったときは、私の付き合っている人の話をしよう 結衣 気弱で生真面目で、ちょっと鼻からずれたメガネをかけてて、頼りなさそうに笑う。 私の心を溶かしてくれた男の子の話をしよう 結衣 まだ、胸には少しの切なさが残っている。 でもこれでやっと、私は彼のことを心から好きだって、自信を持って言える気がした 結衣 帰ったら、彼に電話をしよう。 「心配かけてごめん、今終わったよ、ありがとう」って 結衣 そして、いっぱい甘えよう 結衣 ヒッキーにフラれた頃は、それでも世界が続いていくことが嫌だった。 嫌で嫌で、たまらなかった 結衣 それでも、世界は続いてる。 だから、今は思うんだ。 ヒッキーと笑って話せた、幸せそうなヒッキーを見れた、今だから思うんだ 結衣 私は、この世界のことがもっともっと好きになれると思う。 自分のことがもっともっと、好きになれると思う 結衣 まずはその一歩として、明日。 前も同じのじゃありませんでしたっけ」 八幡「ここはな、豚骨が一番うまいんだよ」 いろは「へえぇ。 ちょっと一口ください。 ……わ、美味し」ヒョイ、ズー 八幡「お前のもちょっとよこせ」 いろは「いいですよー。 はい、あーん」 八幡「ラーメンのスープであーんはねえだろ……」 いろは「あは、自分でもちょっとないなーって思いながらもやってみました」 八幡「そういうチャレンジ精神いらないから……」 八幡「ごっそさん」 いろは「せんぱい早いですって~。 彼女のペースに合わせるとかしましょうよ~」 八幡「ばっかお前のペースに合わせてたら麺が伸びるだろ。 そんなのラーメンさんに失礼だろうが」 いろは「何ですかラーメンさんって。 じゃあ出るか」 いろは「ですね。 店長さーんごちそう様でーす」 八幡「ごちそうさまでした」 店長「あいよーいつもありがとう。 二人はいつも仲良しだねぇ」 八幡「は」 いろは「そうなんですよ~せんぱいが私のこと好きすぎて~えへ」 八幡「寝言なら帰って昼寝してるときにしとけよ一色」 店長「がはは、いいコンビだねぇ。 じゃあまたよろしく!」 いろは「は~い」 八幡「うす」 いろは「あそこは外れなしですね~」テクテク 八幡「まあ、俺の見つけてきたとこだしな」テクテク いろは「うっわそのドヤ顔マジでやばいですよ、相当イラッときました」テクテク 八幡「じゃあ今後も積極的に多用してやる」テクテク いろは「性格わる~」テクテク 八幡「いやいやお前ほどじゃないから」テクテク いろは「こーんな性格いい彼女つかまえてよく言えますね」テクテク 八幡「ああ、たしかに性格いいよお前。 ……色んな意味でな」テクテク いろは「マジでいつか奥歯ガタガタ言わせます」テクテク 八幡「よくお前そんな表現でてきたな……」テクテク いろは「昨日読んだせんぱいの持ってる漫画に書いてました」テクテク 八幡 楽しそうにケラケラと笑う一色と肩を並べて、木漏れ日の差す並木道を歩く。 お互いを見つめてるうちにどちらからともなく舌をからませる。 最近になって、こうすることも増えてきた いろは「ん、ふあ。 ……きもちー」 八幡 舌を離すと、とろんとした目で一色が囁く。 それを見てると思わず胸が高鳴る 八幡「……」ゴク いろは「ふふ、せんぱーい」 八幡 甘い声を出して一色がすり寄ってくる。 初めて抱きしめた時は、そのあまりに華奢な肩や腰に驚いた 八幡 我ながら緊張が見て取れる手つきでその腰に手を回す。 そしてまた唇を重ねた いろは「ん……ぅん……」 八幡「……」 いろは「んぁ……せんぱいすきぃ……」 八幡 耳元で囁くその声に背筋が震える 八幡 もぞもぞと一色の胸に手を動かそうとしてみるが、いかんせん距離が近すぎて、色々なところに肘や腕が引っかかるのが鬱陶しい。 しかし一気にガバッと手を動かす勇気は出なかった 八幡 今日もキスまでで終わるのか。 終わってしまうのか 八幡 若干の諦めとともに手を止めようとしたとき、その手を掴まれた。 掴まれた手はゆっくりと一色の胸に持っていかれた 八幡 驚いて一色の方を見ると、暗がりでも分かるくらい顔を真っ赤に染めて、俺の首あたりを見ていた 八幡 これは……そういうことでいいんだよな?恐る恐るといった具合に、触れてみる。 一色は電気が走ったようにビクッとしたが、すぐにジッと動かなくなった 八幡 ハアハアと、俺と一色の荒くなった呼吸だけが聞こえる 八幡 ちょっとダボッとしたスウェットの上からなので、正直なところ感触がよく分からない。 ただ自分は今、好きな女の子の胸に触れているのだという事実が異常に俺を興奮させた 八幡 勇気を出して、スウェットの中に手を入れてみる。 ガサッとした感触に当たり、それが下着だと分かった。 今度は下着の上から触ってみる いろは「あ……んぅ……」 八幡 少しくすぐったそうに一色は声を出した。 むずがゆかったのか、黙って起き上がってからスウェットを脱ぎ、下着を外した 八幡 一瞬その一糸纏わぬ上半身が露わになり、胸の先でツンとしている桜色のそれが見える。 恥ずかしかったのか、すぐに一色はまた布団に潜り込んだ 一色「ど、どうぞ……」 八幡 こちらを見ずに、しかしわずかに上半身を反らせて一色は呟く 八幡 なので、再び俺は一色のそれに手を伸ばした 八幡「おぉ……」 八幡 軽く触るだけでふにふにと形を変え、少しかたくなっているその先端に触れると一色は小さく息を吐いた 八幡 この世に、触っていてこんなに気持ちいいものがあったのかと驚く。 ずっと触っていたくなるような感触だ いろは「ぁん……んん……ん」 八幡 かすかに呻くように一色は甘い吐息をもらした。 余計に陰茎が大きくなったことが分かった いろは「わ」 八幡 一色にも分かったのか、驚いたように手を引いた。 そしてまた俺のに手を伸ばして、さっきよりもしっかりと触れてきた いろは「また、おっきくなりましたね……」 八幡 頬を上気させてそう言う一色の唇を塞いだ。 自分の口内から響くクチュクチュという音に脳髄が痺れそうになる 八幡 耐え切れなくなり、一色の下半身にも手を伸ばした。 初めて触れるそこは、もうすでにかなりの熱と湿り気を帯びていた。 こらえきれずに一色のスウェットと下着の中に手を伸ばし、直に触れてみる いろは「あ……ん、んぁ……ぅん」 八幡 一色は切なそうな声を出しながら、また顔を近づけてきた。 ためらわずにそれに応える。 お互いに夢中になって相手の歯や唇を舌でなぞり、吸い付く 八幡 そうしているうちに一色が俺のをさする動きはどんどん激しくなってきて、とうとうジャージと下着の中に手を潜り込ませてきた。 少し冷やりとした手が陰茎に絡みつき、かつてないほどそれは硬くなっていた 八幡「……」モゾモゾ いろは「……」モゾモゾ 八幡 お互いにもどかしくなったのか、身に着けていた全ての衣服を脱いで裸になり、また密着する。 優しくお互いを抱きしめて、ついばむような軽いキスをかわし、目と目を合わせると思わずどちらからともなく笑みがこぼれる 八幡 幸せというのはこれか、と思った。 不思議だと思う。 どうしていいか分からなくて俺はおろおろして。 そしたら「幸せだからに決まってるじゃないですか、彼氏ならそのくらい察してください、ばか」なんて怒られたりして いろは『私も、愛してます。 せんぱい』 八幡 ベッドに二人寝転び、そうぽつりと呟いて微笑んだ彼女の顔。 それを心の奥の奥に大切にしまったことだけは、記しておこうと思う プロローグ 『じゃあ、元気でな』 高校二年生の時の三月三日、卒業式が終わってから会いに行った私に、あの先輩はそう告げた。 別に、恋をしていたわけじゃない。 最後に告白でも、なんて思っていたわけじゃない。 ただ、色々とお世話になったし、最後にお礼くらいは言おうと思っていただけだ。 三年生たちの輪から外れてポツンと立っている先輩を発見した時、息を呑んだ。 その瞳にある深い、深い悲しみに。 そして、その瞳が誰と誰に向けられているのかも察した。 急に「ご卒業おめでとうございます」の一言が出なくなって、私は先輩の近くで立ち止まって黙りこくってしまった。 ふと先輩はこちらに気づき、驚いたような表情をしてから控えめに微笑んだ。 記憶の中で数少ない先輩の笑顔だった。 最後に見るかもしれない笑顔、だった。 そして『小町をよろしくな』とポツリとこぼし、去って行った。 先輩に私は、何度も笑顔にしてもらったと思う。 それに対して、私はどれだけあの先輩を笑顔にすることができただろうか。 どうして、皆は晴れやかな顔をしているのに先輩だけがあんな辛そうな表情で校舎を後にしたのか。 そのことについて、何度も考えた。 そして未だ答えを出せないまま、三年が経ち。 私はバイトからの帰り道を歩いている。 久しぶりにあの人の名字を思い出したきっかけは、店長の一言だった。 『あ、一色さん。 今度、新しいバイトの子入るからよろしくね』 『はあ……。 りょーかいです。 なんて人ですか?』 『比企谷って子。 知らないでしょ?』 何気なく言ったその店長の言葉に、私の心臓はドキリと跳ねた。 まさか、と思いながらも名前を聞いてみる。 『んーたしか……えー。 荒田……じゃなくて、八幡、だったかな?もしかして知ってる?』 その時、店長に何て返事をしたのかはもう覚えてない。 『ええ』とか『ああ』とかなんとかボヤーッとしたことを言ったような気がする。 バイトから帰宅してテレビをつけると、高校の時に流行ったバンドの演奏が映し出されていた。 そういえば、あの頃はずっと聴いてたっけな。 いつから私、このバンドを聴かなくなったんだろう。 大学に入学して、最初の頃は楽しかった。 初めての一人暮らしとか、大学には高校と違って本当に色々な人がいて、その人たちと遊んだりすることが刺激的に感じた。 いつからなんだろう、本当に。 こんなに毎日を色あせて感じるようになったのは。 感情の大きな起伏が減ったように思う。 思いっきり嬉しくなって笑顔になったり、辛いことがあって泣いたり。 そういうことが年々少なくなっていった。 まあ、皆そういう風になっていくものなのかもしれないけど。 大学に入学してからできた一番仲のいい友達にそれを話すと、「好きな人とかいないからじゃない?」なんていかにも女子大生的な答えをもらった。 でも、どうなのだろう。 実際、高校時代に葉山先輩に恋をしていたときはもっと毎日が楽しかったような気もする。 かといってその友達に合コンなどに連れて行ってもらったりしても、特にそういう気持ちになることもなく毎回終わってるし。 そういう恋愛ごとを抜きにしても、最近はいろいろとついてないことが多い。 一週間前に、二ヶ月かけて準備したゼミの発表を教授にけちょんけちょんに貶された。 これは、ついてないというより私の至らなさが原因だけど。 なのでそれはともかく、三日前に高校時代から好きで使ってきた手鏡が割れた時は心底落ち込んだ。 嫌なことは続くものである。 良いことは続かないくせに。 どうしてパソコンで在庫検索をするとたしかに存在するくせに本棚に無いことがあるのだろう。 たいがい、お客さんが別の棚に移してたりするんだけど。 あれは困るからやめてほしい。 どうしても見つからなくてお客さんに頭を下げると、めちゃくちゃ怒られた。 あんたみたいないい加減な子がいるから日本はダメになっていくのよ、なんて壮大な意見を言われた時には思わず失笑しそうになった。 私は日本代表ですか。 それはそれ、見つからなかったことに関しては完全にこちらの非なので本当に申し訳なかったけど。 時間になったのでタイムカードを切っていると、店長に「お疲れ」と声をかけられた。 「お疲れ様です」 「明日からだから、新人くん。 よろしく」 「そうなんですか」 と、真顔で答えることはできたと思う。 なんとも言えない期待感と高翌揚感があった。 久しぶりの感覚だった。 どうしてこんなに楽しみにしているのかは自分でも分からなかった。 あの人のこと好きだったっけ、私。 いや、ないない。 そんな記憶はない。 ただ、一緒にいると気楽で、面白い先輩だったから。 それだけな、はず。 帰宅するために自転車に乗って、家までの道を走る。 今日は疲れた。 早く帰ってお風呂に入って、ベッドで泥のように眠りたかった。 思わずペダルを漕ぐ足に力が入る。 すると突然、変な音がしたと思ったら身体がに転がっていた。 どうも自転車から転落したらしい。 身体中に妙にジンジンくる痺れのような感じがあって、痛みはあまり感じなかった。 「本当についてないなぁ……」 思わずぼやいて自転車を起こそうと見てみると、チェーンが切れていた。 どうもこのせいで転落したようだ。 深いため息をついて、自転車を起こす。 とぼとぼと歩き始めると、どんどん落ち込んできた。 毎日、嫌なことが続いている。 私って、こういうときどうしてた?どういう風に切り抜けてたっけ?どうにかして耐えたら、いつの間にか切り抜けてた気がする。 歩きながら考えを巡らせる。 一、友達に話してた。 たしかにそういうことはよくあった。 でも最近はそれでもあまり上手くいかない。 二、適当な男の子と遊んでた。 最近はあまりそういうことへの興味が減ってしまった。 三、家族に話してた。 うーん、あんまり。 思いつかないまま、ボーっと夜空を見上げてみる。 あまり星が見えなくて、吸い込まれそうなほど黒い夜空にポツンと浮かぶ月は何故だかとても寂しそうだった。 でも、綺麗だった。 そしてふと、思い当たる。 回答にたどり着く。 『いや、無理だろ』 『すまん、今からちょっとアレだから』 『はぁ……。 しょうがねえな。 で、何』 文句を言いながら、いつもなんとかする。 あざといヒーローが、私にはついていたことを。 そっか、私っていろんなことをあの先輩に頼ってたんだ。 いっぱい、救われてたんだ。 心の支えになってたんだ。 だから今、こんなに会いたかったんだ。 意識すると、急に明日が楽しみになっている。 明日には少なくとも一つ、いいことがあることが確定している。 それだけで、少し力が湧いてくる。 ポツンと浮かんだ月が、一人夜道を歩く私を私を優しく照らしていた。 翌日、私は気合を入れて出勤した。 私はずっと、先輩にお礼を言いたかった。 言うんだ。 そして、高校時代に私がたくさんの笑顔をあの人からもらったように、今度は私が、何度も、何度もいっぱい先輩を笑顔にするんだ。 お酒とか、誘ってみようかな。 先輩はあまり好きじゃないだろうか。 ただの昔の知り合いなのに馴れ馴れしくしやがって、なんて嫌がったりしないだろうか。 昔に比べて、ずいぶん私は臆病になったのかもしれないと思う。 でも、これでいい。 今の私と今の先輩で、ゆっくり仲良くなっていければいい。 今の先輩がどうなっているのかは知らない。 でも、もしまだあの場所で、総武高校奉仕部で立ち止まっているのなら、ほんのわずかな力になれればいいと思う。 そのためにまず、仲良くなろう。 自然な感じで声をかけて、全然気づいてませんでした。 なんて、思わせるように。 大丈夫、演技力だけは自信があるんだ。 先輩が店長室から出てきた。 すると、私は自然と笑顔になってしまって、そしてあなたに問いかける。 「…あれ?もしかして比企谷せんぱいですか?」 終 元スレ いろは「せんぱーい、いちゃいちゃしましょー」八幡「無理」 sspark.

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