あなた の 大きな 体 で ぎゅっと 抱きしめ て 離さ ない で 歌。 【 歌う+迷わない 】 【 歌詞 】合計99件の関連歌詞

#4 サバナクローの仕返し審神者

あなた の 大きな 体 で ぎゅっと 抱きしめ て 離さ ない で 歌

「お困りならば、お助けいたしましょうか?」 にっこりと笑って声をかけてきた男がいた。 振り返り、目が合う。 笑みをますます深め、手を差し出す。 「貴方を助けて差し上げましょう。 」 悪魔の誘いのような甘い囁き。 その手を取りたくなるような慈愛に満ちた表情を浮かべる男に、審神者は言った。 「いえ、結構です。 」 「サガミくん何したんスか?」 「何って?」 「アズールくんッスよ。 」 「あずうる…?」 「あ、そこからなんスね。 」 昼時、珍しく食事を共にするラギーの言葉に首を傾げる審神者。 話が噛み合っていないことに、ラギーはすでに諦めの境地だった。 ぽやぽやとした顔で焼きそばパンをもそもそ口に含みながらも、相変わらず片手には参考書がある。 進み具合は順調で、そろそろ授業で行われている範囲まで追いつきそうなところまできていた。 ハーツラビュルの花瓶怨霊事件以降もリドルの勉強会は実施された。 相変わらずのツンデレではあるが、怒られないための予習が功を奏し、順調に進めることができたのだ。 「ほら、最近よく絡んできて人いるじゃないッスか。 」 「あー、あの眼鏡の?」 「おや、お呼びですか?契約します?」 「うわっ出た。 」 噂をすれば影。 審神者としては眼鏡としか言ってないのにどうして自分だと思った、と問いたかったが、もうすでに彼と会話すらしたくなかったのでお口にチャックをした。 何も言われないのをいいことに、アズールは笑顔で審神者の隣に腰を下ろした。 「ほら、サガミくん。 この人がアズールくんッスよ。 」 「そういえば名乗っていませんでしたね。 アズール・アーシェングロットです。 契約内容のご相談でしたらいつでも受け付けますよ!」 「結構です。 」 「結構です!? でしたらすぐにでも契約書を作りましょう!」 「じゃあラギーさん、先に行ってるね。 」 話を曲解するアズールとこれ以上の会話を拒んだ審神者は、さっさとトレーを持って席を立った。 チッと舌打ちするアズールを見て、ラギーは乾いた笑いを浮かべる。 しかし、そこまでして審神者に執着するアズールに対し、興味もあった。 藪蛇だとはわかっていたが、聞いてみることにした。 「アズールくんはなんでサガミくんとそこまで契約したいんスか?」 「ブッチさんもご存じでしょう?サガミさんのユニーク魔法!」 「あー…あれね。 」 ハーツラビュルの花瓶怨霊事件により、サバナクロー内で留まっていた噂は一気に他寮へと拡散されることになった。 それにより審神者はここ最近注目を浴びることとなっていた。 それと同時に相談窓口としても大人気だった。 物を捨てたいけれど勇気がないから代わりに捨ててくれ、といった相談内容が多かった。 最初は善意で受けていた相談も、最近では金を取るようになった。 ラギー・プロデュース・ブッチ。 閑話休題。 そんな噂を聞きつけたアズールは、なんとしてもそのユニーク魔法と勘違いされている能力を欲しがった。 物を人間に出来る魔法って何!? なんと使い勝手のよさそうなユニーク魔法! 何としても欲しい! 詳しく言うと、今後経営を見込んでいる某ラウンジの経営のための人手とか。 人件費が浮くじゃないかやっほー!といった具合である。 ただし、アズールたちと審神者との間には、認識の齟齬があった。 当たり前だが、審神者の力はユニーク魔法ではない。 そもそも、生まれつき備わったものであり、他人に譲渡することはできない。 アズールが知らないのはもちろん、審神者もそのことに思い至っていない。 そのためここ最近、審神者はアズールの姿が見えるたびに逃げ回っていた。 しかしアズールがその程度の抵抗で諦めるはずもない。 すでに次の手は打たれていた。 「!」 廊下を歩いていた審神者の視界に、曲がり角から緑色をした尾のようなものが覗いていた。 恐る恐る歩み寄った審神者は角から顔を出す。 そこには、下半身が魚の尾のようになってしまっている男が倒れていた。 驚き駆け寄ると、浅い呼吸を繰り返しているのがわかり、慌てて声をかけた。 「大丈夫ですか!? 」 「っ、うっ…み、水を…!」 「水ですね!? 」 辺りを見回すと、少し先に水道があるのが見えた。 往復するには絶妙に距離があるし、残念ながら器になるものもない。 手で掬った些細な量の水を往復して持ってくるよりも、この人を抱えた方が早いと即座に判断した審神者は倒れている者の腕を掴んで持ち上げた。 その体を背中に乗せ立ち上がるが、体がぐらつく。 予想以上に重たい体を半ば引きずるようにして歩き出す。 ずるずると、水を含んだ音を引きずりながら、水道へと一歩ずつ近づいていく。 広い流し台の部分に乗せ、蛇口を捻る。 勢いよく水が出て、その体表を濡らしていく。 額の汗を拭い、生徒の顔を覗き込んだ。 「これで大丈夫ですか?」 「ええ、上出来です。 」 返ってきた言葉は背後から投げかけられた。 弾かれたように振り返ると、満面の笑みを浮かべたアズールが立っていた。 逃げようとした審神者の腕を、誰かに強い力で掴まれる。 腕を掴んだのは、水道まで連れてきた人物だった。 にいっと不気味に口角を吊り上げてギザギザの歯を見せつけられ、審神者はぞっとした。 嵌められたと気づいたときには遅い。 腕を振り払おうにも、強い力で掴まれていて難しかった。 そうしている間にアズールが近寄ってくる。 窓から差し込む光の加減で、眼鏡が反射しているのが恐怖を煽る。 「よくやりましたね、ジェイド。 」 「はいジェイド薬~。 」 「ありがとうございます。 」 「うわっ、分身した。 」 目の前に迫ったアズールに、死を覚悟していたら、いつの間にか助けた人物が分裂して増えていた。 よく似たようで異なる顔で笑った二人。 内一人がずいっと顔を近づけてきた。 「アンタが最近アズールが追っかけてる小魚ちゃん?オレ、フロイド。 よろしくね~。 」 「人違いです。 」 「あ゛?」 「フロイド、あまり怖がらせてはいけませんよ。 」 フロイドと名乗った男は一瞬前までの機嫌の良さそうな笑みから一転。 眉間に皺を寄せ、審神者を威嚇してくる。 フロイドから変身薬を受け取ったジェイドはそれを飲み干すと、みるみるうちに下半身が人間の足へと変化していく。 水道から降りてきても、不敵な笑みを浮かべるだけで、フロイドを止めるわけではない。 その間もジェイドは審神者の腕を掴んで離さない。 そんな二人を押しのけ、アズールは審神者に詰め寄った。 「さぁ、もう逃げられませんよ。 僕と契約してくださいますね?」 「貴方はその契約とやらをさせて何がしたいんですか?」 「もちろん、あなたのそのユニーク魔法が欲しいんです。 」 ドキッと、胸が嫌な音を立てる。 この世界でユニーク魔法と呼ばれているもののことはわかっている。 自分の審神者としての力が対外的にユニーク魔法と呼ばれていることも知っている。 それを、アズールは寄越せという。 この力を譲渡する術があるのかどうか、審神者に知る術はない。 しかし恐らく、自分以外にも力の譲渡を迫り、それを成したことがあるのだろう。 アズールが、黄金に輝く契約書を審神者の眼前に突きつけた。 審神者の腕を掴む力が強まった。 一瞬顔をしかめた審神者は、アズールの顔を正面から睨み返した。 「貴方がそのユニーク魔法をくださるのであれば、どんな願いでも叶えましょう。 成績アップ?お小遣いアップ?ああ、それとも片想いの相手と両想いにでもして差し上げましょうか?」 余裕の表情で笑むアズールはその笑みには嘲りすら浮かんでいる。 だって、今までの契約相手たちはそうだったから。 どんなに難しい願いだって叶えてやろうと持ち掛ければ、何でも差し出してきたから。 彼女が欲しいから、美しい声と引き換えにスタイルを良くしてやった。 ボサボサのクセ毛に悩んでいたから、速く泳ぐための大きな尾びれと引き換えにサラサラで美しい金髪を与えてやった。 きっとこいつもそうだろうと、アズールは決めつけていた。 自分一人でできないことなど山ほどある。 人を頼ることは何ら悪いことではない。 その怠惰のお陰で、アズールも得をする。 いつかのように、手を差し伸べる。 「さぁ、僕と契約して、貴方の望みを叶えてください。 」 もう一方の手に持った金色の契約書に羽根ペンを揃えて差し出す。 さぁ、ここにサインをしろ! 抑えきれない興奮に、口角が上がる。 聞いたことも、見たこともない魔法が自分の手に入る。 アズールは信じて疑わなかった。 「誰がお前なんかにやるものか。 」 冷たく吐き捨てられた言葉に、アズールだけでなく、審神者の腕を掴んでいるジェイドも、飽きて遠くを眺めていたフロイドも、驚き目を見開いた。 誰がどう見たって、審神者は現状詰んでいる。 リーチ兄弟に挟まれ目の前にはアズールもいる。 逃げ場などあるはずない。 しかし、その瞳に諦めの色はない。 意地でもアズールに屈するつもりはないという目だった。 その頑なな様子に、アズールは気圧された。 「な、何故ですか…?」 「この力は、絆だから。 私は、私を慕って信じてくれるモノたちを、裏切らない。 絶対に!」 アズールが一歩後退った。 それを見たジェイドが、強い力で審神者の腕を捻り上げた。 苦痛の表情を浮かべる審神者の足は辛うじて床についているだけで、ほぼジェイドに吊り上げられている状態だった。 「マジそういうのウゼェんだけど。 」 審神者に詰め寄ったフロイドは瞳孔が開いていた。 審神者に手を伸ばし、首を掴んだ。 じわじわと力を込めていくと、審神者の顔が赤くなっていく。 「お前はさぁ、アズールの言ったことに頷いとけばいいんだよ。 」 「ちょぉーーーっと待ったぁーーーーーー!!! 」 フロイドの手に一層力が籠り、審神者が「がっ!」と息を零したときだった。 それを遮る声に、三人が振り返ったときだった。 べしゃっと音がして、アズールの上着に何かがかけられた。 「「っ!!! 」」 一番に反応を示したのはリーチ兄弟だった。 バッと両手で口を覆ったことで、審神者の拘束が解かれた。 大きく咳き込みながらも、辛うじて座り込むことは避けることができた。 足を動かし、乱入者の元まで走った。 突然のことに驚き動揺していたアズールが、審神者を追いかけようと脳みそが指令を出したのは、奇しくもその異臭に気づいたときだった。 「う゛っ!?!? 」 「シシシッ!残念だったッスねアズールくん!アンタらを敵に回したいワケじゃないんスけど、今回は先に報酬もらってるんで、こっちの味方させてもらいますね~!! 」 捨て台詞を残して走り去ったラギーは、鼻の良さから自滅しながらも、満身創痍な審神者と逃げて行った。 「マジで割に合わねーッス!追加報酬を要求するッス!! 」 「ッゲホ、明日の、お昼でどう!? 」 「乗ったッス!! 」 咳と笑いが混ざり合いながら、二人は廊下をドタバタ駆けていった。 残された三人は、死の淵をさまよっていた。 「何この匂い~!?!? ッオエ!」 「ッ…、これ、は、恐らく…、シュールストレミング、ではないでしょうか…?オ゛エ゛ッ…!」 「二人ともしっかりしなさい!! 確かに死ぬほど臭いですが、こんなところで吐き散らかさないでください!! 」 「ちょっ!近づかないでアズール!! マジ臭いから!!! 」 「なっ!?!? 」 「そうです!!! 貴方の上着にぶちまけられたものが元凶なんですから!!! 」 「僕のせいではありません!!! 」 半泣きになったアズールと双子の追いかけっこはしばらく続いた。 双子だけではなく、道行く生徒たちにもあからさまに避けられ、アズールは本気で泣きたくなりながら一日を終えた。 しかし、彼らの不運は、これで終わらなかった。 オクタヴィネル生が、アズールの部屋を訪れた。 昨日、してやられた件の報復について相談していたため、珍しく三人揃ってアズールの部屋にいたときだった。 「ああ、リーチ兄弟も揃ってたならちょうどいい。 お前たちに届け物だ。 」 そういって生徒は、三つの箱を差し出した。 それぞれ一つずつ受け取るが、三人は顔を見合わせて首を傾げた。 「誰からですか?」 「サガミと名乗るってた奴からだ。 」 その名前を聞くと、三人は揃って眉間に皺を寄せた。 昨日の恨みは根深かった。 「昨日のお詫びですとのことだ。 」 そんなことを言われても、許せるものではない。 リーチ兄弟は一日中吐き気に苦しめられたし、アズールはお安くはない寮服のジャケットを駄目にされた。 届けてくれた生徒は「なんか希少なものらしいな。 よかったな」とだけ言い残して去って行った。 がめついアズールは、その一言にぴくりと反応を示した。 フロイドとジェイドが疑いの眼差しで箱を見つめる中、アズールは、箱にかけられたリボンに手をかけた。 「ま、まぁ、もらえるものはもらっておきますか!もちろん、あの者を許すわけではありませんが。 」 わかりやすく浮かれるアズールに、ジェイドもフロイドも呆れた顔を向ける。 アズールは、箱を開けた途端瞳を輝かせた。 「こ、これは、不死鳥の羽根でできた羽根ペン…!! 」 不死鳥の羽根は、当たり前だがそう易々と手に入るものではない。 利用価値が高い品物でもあるため、羽根ペンなどに加工する者は少ない。 そのため、輪をかけて希少な品となっている。 ライトグレーの瞳をまるで子供のように輝かせるアズールを見て、フロイドとジェイドも中身が気になった。 フロイドの箱の中には、お高いブランドの最新作の靴が、ジェイドの箱の中にはきのこリウムキットが入っていた。 二人は、アズールに負けないくらい喜びはしゃいだ。 しかし、ふと、ジェイドだけは我に返った。 なんだか、出来すぎているのではないだろうか。 自分を追いかけ回していた、いわば敵の喜ぶものを用意するなんて、おかしくはないか? 自分ならばしない。 そんなことをぐるぐる考えていたが、フロイドに声をかけられ「明日からオレこれ履いてくー!」と喜ぶ姿に、そんな疑いの気持ちは薄れてしまった。 自分も、今夜はこのテラリウムを楽しもうと気分を切り替えた。 そんな彼らに異変が訪れるのは早かった。 宣言通り、真新しい靴をおろして意気揚々と登校したフロイドは、昼を迎える前に、自らの足に違和感を覚えた。 「…?なんか、足ヘン。 」 「靴擦れではないですか?」 「んー…なんか違う感じ。 膝らヘンが…なんか…、」 言葉にならないまま、フロイドはそれでも自らの不調を片割れであるジェイドに伝えようとした。 生まれてから今まで、共に生きてきたフロイドの言いたいことも、ジェイドはなんとなく察していた。 何より、自分も朝からいつもと違った体の異変に戸惑っていた。 何というわけではない。 どこというわけではない。 しかし、違和感がある。 それは時間を経るごとに増していく。 昼時、学食ですれ違ったジャミルから声をかけられたことで、得体のしれない恐怖を感じることになった。 「今日、アズールは調子が悪いのか?」 そう言ってきたジャミルに、ジェイドは首を傾げた。 「いえ、むしろ今日は絶好調のはずですが。 」 「そうか…、珍しく小テストで赤点ギリギリの点数だったり、質問にこたえられなかったりしたから。 」 「「…。 」」 リーチ兄弟は、目を合わせて難しい顔をした。 今日、アズールは不死鳥の羽根ペンをおろして、ご機嫌だった。 そのやる気が空回りするようなタイプでもないはずだ。 違和感が、形を成して襲い掛かってきたような気がして、二人は身震いをした。 夕方、ジェイドは足を止め、振り返った。 」 夕日の差し込む廊下。 何もないそこから、土の匂いを強く感じた。 一本道のそこには、ジェイドの影が長く伸びているのみだった。 しかし、唐突に香る土の匂いが、ジェイドの足をその場に縫い留めていた。 きょろきょろと視線を動かす中、ふと、自分の手を見下ろした。 昨日、夜遅くまでテラリウムづくりに勤しんでいたことを突然思い出し、おもむろに自分の手を鼻に近づけた。 スン、と一嗅ぎした途端、ジェイドは自分の手を顔から遠ざけ、寮へ向かって走り出した。 土の香りの中から、確かな死の匂いを本能的に嗅ぎ取って、背筋が凍った。 すぐに手をよく洗い、匂いを確かめる。 薄まっていない匂いに、ジェイドは震えながらシャワーを浴びる。 もう一度確かめるが、やはり少しも薄まっていない。 それどころか濃くなってすらいる匂いに、恐怖が増すばかりだった。 ジェイドは、すぐに布団に潜りこんだ。 明日になれば、きっとなくなっているだろう。 強く願いながら目を瞑っていると、扉のノックされる音がした。 顔を覗かせたのは、フロイドだった。 膝をさすりながら、足を引きずって入ってきたフロイドは、眉を下げ、今にも泣きそうだった。 「ジェイドォ…一緒に寝ていい?」 「…ええ、フロイド。 一緒に寝ましょう。 」 自らの片割れを布団に迎え、抱き合って目を瞑った。 しかし、そう時を置かずに、再び扉がノックされた。 入ってきたのは、アズールだった。 「僕も、一緒に寝てもいいですか…?」 「ええ、もちろんですよ。 アズール。 」 枕を抱え、顔を青くさせながら弱々しい声で紡がれた言葉に、双子は自分たちの間へとアズールを招き入れた。 三人くっついて、目を閉じる。 この恐怖も、明日には消えているだろうと、祈りながら。 そうして眠りに落ちていった。 [newpage] 「!」 鳥の鳴き声に、アズールは目を覚ました。 夕暮れ時、物置部屋のような場所にいた。 座り込んだ目線の先には一つの窓があって、そこからは赤い日差しが射しこんでいた。 寝起きの頭でそれをぼうっと眺めていると、鉄格子の隙間から、鳥が飛び込んできた。 「!あれは…!! 」 その鳥は、夕日の色にも負けない赤い鳥だった。 文献でしか見たことのない鳥。 不死鳥だと、アズールは確信をもっていた。 アズールは咄嗟に、捕まえようと思って胸元のマジカルペンに手を伸ばした。 しかし、いつもそこにあるはずのそれがないことに気づくと同時に、窓の隙間から、細く輝く物が刺し込まれた。 言葉も出ないまま、真っ赤な不死鳥が落ちていくのを目で追っていた。 不自然に、一枚の赤い羽根だけが空に残り、ひらりひらりとゆっくり舞い落ちている。 羽根とは対照的に、ぼとりと重みをもって地面に落ちた、不死鳥と呼ばれているはずの鳥が、あっさりと息を引き取った。 その事実に、恐怖が体を支配する。 部屋に影が落ちる。 窓の方を見ると、男と目が合った。 びくりと体が跳ねる。 「露と落ち、露と消えにし我が身かな。 」 目元に影を落とした男が、うっそりと笑った。 まるでその台詞を待っていたかのように、羽根が地面にゆっくりと着地した。 その瞬間、羽根の赤さに負けない炎が上がった。 た、助け…、」 アズールの顔からさっと血の気が引いた。 炎は、物置部屋の中に積まれた物たちに次々引火していく。 助けを求めるように窓の外の男を見やった。 柔和な笑みを浮かべる男が持っている物が剣であることに、その時気づいた。 堂に入った構えでその刀を構える男。 混乱したアズールの頭でもすぐに理解できた。 その剣が次に刺すのは、自分だということを。 腰が抜けて立ち上がれないながら、アズールは震える手で体を引きずり扉を目指した。 押しても開かない扉に焦りが最高潮を迎える。 火の手は、どんどんとアズールの元へと迫っていく。 肌が、ちりちりと熱さを訴え、乾いていく感覚が怖かった。 「大丈夫。 炎が全てを焼いて、なかったことにしてくれます。 貴方の罪も、ね。 」 「っ!!! 」 すぐ背後から声がして、弾かれたように振り返った。 外にいたはずの男が、いつの間にか後ろに立っていた。 「どうぞ、お選びください。 炎に焼かれ許されるか、我が刃にて切り伏せられ許されるか。 」 炎を背に立つ男の顔は、アズールからは見えなかった。 青空のように澄み渡った髪色が、燃え盛る炎の色に塗り変えられていくようだった。 アズールは、呼吸すらままならず、刀を構える男を見上げた。 「では、両方というのはいかがでしょうか?」 「ひっ!! 」 「私も心苦しいのです。 ですが、主の怨敵を、許すこともできない。 」 男は優しい笑みを浮かべながら、しかし容赦のない言葉でアズールを責め立てる。 背を扉に押しつけ、泣きそうな顔で首を振る。 しかし、非情にも男は距離を詰める。 男から目を離せないでいると、アズールの爪先に火が移った。 「お覚悟。 」 熱さに驚き飛び上がった瞬間、視界に閃光が走った。 それが刃で、袈裟懸けに切られたのだと気づいたときには、炎が全身を包んでいた。 熱さに悲鳴を上げることもできないまま、ただ乾いていく感覚の中、意識を失った。 目が覚めても、足は痛みを訴えていた。 もう立ち上がる気力さえ残っていない。 フロイドは、見知らぬ場所で座り込んでいた。 これが夢だとすぐにわかったが、あまりにリアルな痛みに完全にやる気をなくしていた。 痛みに耐えるように丸くなって寝転んでいると、コツコツと音が響いてきた。 誰かが歩み寄ってくる音だと気づいても、フロイドは体を起こさなかった。 靴の音に交じって、何か、固い物を引きずる高い音が混ざり始めた頃、血の匂いが濃く香ってきた。 「?」 痛みを堪えてのそりと上体を起こす。 音のする方を見て、眉を顰める。 嫌な気配がする。 マジカルペンを構えようとして、いつもある場所にあるそれが見当たらなくて、まずいと思った。 足に力を込めて立ち上がろうとするも、もう足が別物になってしまったかのように、感覚がなくなっていた。 しかし、音は止まることなく近づいてくる。 焦ったフロイドは匍匐前進の要領で音から遠ざかるように移動し始めた。 しかし、歩く速度と這う速度では比べるまでもない。 当たり前のように距離が詰められていく。 フロイドは背後を振り返った。 人の姿が視認で来た。 黒い装束の男は、剣を引きずって歩いてくる。 動かす腕の速度を上げるが、限界がある。 いつの間にか、男はフロイドに追いついていた。 顔前の地面に、さくりと剣が刺し込まれ、フロイドは動きを止めた。 「兄者を差し置いて俺でよいのかとも思ったが、主を害するものを放っておくこともできないのでな。 」 フロイドが見上げた男は、真面目そうな顔をしていた。 黄金色の瞳が薄暗い中でぎょろりと鋭く光っている。 蛇に睨まれたウツボのように、フロイドは動けなくなってしまった。 薄緑色の髪をした男の視線が、フロイドの足元へと移る。 「その足、よほどいらないと見える。 」 視界から、ゆっくりと剣が消えていく。 切っ先が光を反射させ、それに見とれている間に、空気を裂くような音がする。 「…あ……?」 ごろりと視界の端に何かが転がった。 血に濡れた棒のようなそれは、まるで足のようだ。 その足のようなものが履いている靴に見覚えがあった。 視線を下半身に向けたとき、フロイドは声を上げた。 「ぎゃあああああ!!! 」 痛覚が消えていたから気づけなかった。 視界の端に転がって来たもの。 それが己の足だと気づいて、フロイドは絶叫した。 「騒がしいな。 その口も、塞いでやろう。 」 冷たい瞳で見下ろす男は、無慈悲に剣を持ち上げた。 フロイドは、その切っ先が自らの顔に到達する前に、意識を落としたのだった。 酷い匂いがして、目を開いた。 手からしていたはずの死臭の満ちた場所に、ジェイドは横たわっていた。 口元を手で覆い、この場から離れようと立ち上がった。 辺りを見回すと、知らない場所にいることに気づいた。 少し雰囲気は異なるが、墓地のようだと思った。 とにかくここにはいたくなくて、あてもなく歩き出す。 墓と思われる石と石の間を歩いていく。 しかし、どこまで行っても終わりが見えなかった。 気分が悪くなっていく中、ジェイドは足だけは止めなかった。 それからまたしばらく歩くと、一際大きな石が見える。 ジェイドは、その石に誘われるかのように、ふらふらとした足取りで近づいていった。 大きな石には名前が彫られているように見えたが、ジェイドにはその文字を読むことができなかった。 ぼうっと眺めていると、地面がぐらりと揺れた気がした。 それが気のせいではないと気づいたときには、ジェイドはバランスを崩して尻餅をついていた。 そのとき、ボコッと音がして、地面から人の手が飛びだしてきて、ジェイドの手に重ねられた。 驚きその手を振り払ったジェイドは、地震の止んだ地面を蹴り、走り出した。 しかしすぐにその足は止められることになった。 今まで通ってきた石の下から、骨になった体が出てきたからだ。 ジェイドは慌ててきた道を取って返した。 そして大きな石の元まで来ると、他とは違い、きちんと肉のある体が地面から出てくるのが見えた。 白い服を土で汚し、体を引きずり出す男が顔を上げる。 「ひっ!! 」 ジェイドは、珍しく情けない声を上げた。 それもそのはず、男の顔の半分が腐り落ちていたからだ。 もう半分からは生前さぞ男前だっただろうと推測することができる。 その肉のついている片側を人の良い笑みで彩って、立ち上がる。 「驚いたか?人の手を渡り歩いてる間に粗雑に扱われてなぁ…こんな風になってしまった。 」 溌溂とした声音と、骨の見える顔の対比が、ジェイドの恐怖を一層煽る。 震える足を動かそうとするが、地面に縫いつけられたように動かせなかった。 その間にも、真っ白な男は近づいてくる。 一歩近づくたびに、着物がボロボロになっていく、肌が見え、そこが腐っていく。 蛆虫の湧く体を何とも思っていないのか、男は笑顔のままジェイドに近づいてくる。 「逃げる足があればよかったんだがなぁ…あいにくそれも以前の俺にはないものだった。 」 艶のあった白い髪も、ジェイドの目の前まで来る頃には縮れ、抜け落ち、腐った顔側の髪はすでになくなっていた。 ほぼ白骨化した右手を差し出し、震えるジェイドの頬に添えた。 「あまり人を追いかけ回していると、」 ボロッと、何かが落ちる。 「お前もこうなるぜ?」 そう言って離れていく手に、肌色と赤色をした何かが乗せられていた。 それが自分の肌だと気づいたときには、体を死臭が覆っていた。 「っあ、ああ…!あああああああああああああああ!!!!! 」 腐ったものの匂いがして、それが自分の肌で、それがどんどん広がっていく。 ぼとぼとと地面に落ちるものを直視できなくて、目を閉じ体を小さく丸めた。 それでも腐敗は止まらなくて、どんどん意識が遠退いていく。 自分が何か別のものに作り変えられていく気がして、怖かった。 「罰当たりなことはするんじゃないぞ?」 じゃないと。 目を開けるジェイドの視界に、真っ白な男が映った。 腐敗もない、ただただ神々しいまでの人間の姿が。 「「「っ!!!!! 」」」 アズール、フロイド、ジェイドが飛び起きたのは、ほぼ同時だった。 それぞれが今見た夢に冷や汗を流し、震えていた。 自分の体を触って確かめ、次に隣にいる幼馴染の、兄弟の体を触って確信する。 生きてる、足がある、腐ってない。 何も言わないまま、三人は抱きしめあっておいおいと泣いた。 今はただ、無事であったことに安心して。 泣き疲れて眠るまで、三人は大泣きするのであった。 「いやぁ~脅かしすぎたかな?」 軽やかに笑う鶴丸の顔を見て、審神者は苦笑を浮かべる。 「内容は聞かないでおくよ。 」 「聞いてくれないのか?渾身のできだったんだがなー…。 」 心底残念そうな顔で肩を落とす鶴丸の額を小突いて、審神者は大きく伸びをした。 「さて、そろそろ私も起きなくちゃ。 」 「夢の中でしか会えないなんて、不便だなぁ。 帰ってこれる算段はついたのか?」 「…、まだ…。 」 「…そっか。 」 それだけ呟くと、鶴丸はぽんぽんと審神者の肩を叩く。 笑みを浮かべ、胸を張る。 「まぁ、君は今まで外の世界に触れることなく育ってきたんだ。 これは神の思し召しだ。 外の世界を見て知り、学んで来いとな!」 「神がそれを言うのか?」 くすくすと笑いを零して、審神者はふと寂しそうな顔をする。 「それでも、早く帰りたいよ。 貴方たちのいるところが、私のいる場所なんだから。 」 「おっ!嬉しいことを言ってくれるねぇ!でも、焦らず、今を楽しめよ、主。 」 鶴丸は、審神者を置いて一人歩き出す。 少し先の光の中に、一期一振と膝丸が立っている。 彼らの元へ歩み寄り、すぐそばまで行くと振り返る。 「今生の主たる君といるのが、俺たちの喜びだ。 でもな、君が楽しいと、俺たちも楽しいんだぜ!」 「っ、…うん。 」 「一足先に、本丸で待ってるぜ!」 大きく手を振る男たちの姿が、光に溶けて消えていく。 審神者はその光に背を向け、歩いていく。 今日も、一日が始まる。 [newpage] 審神者 前回くらいから、夢の中で出会う刀剣たちは自本丸の本物の刀剣であると気づいた。 夢の中で出会う彼らに安心している。 帰る場所は、彼らのいるところ。 オクタ三人衆に渡したものは、依頼で預かった怪しい品。 買ったはいいが、悪いことばかり起こるから処分してほしいと頼まれていた。 ラギー・ブッチ ナイスアシスト。 数日前に昼飯で買収されていた男。 シュールストレミングでその後自滅した。 アズール・アーシェングロット 今回の諸悪の根源。 この事件後、しばらくは大人しいが、またすぐに悪徳商売を始める。 もうすぐ試験だもんね! 審神者とはしばらく距離を置く。 審神者の力はまだ諦めていない。 いずれタイミングを見て契約しようとしてる。 めげない。 フロイド・リーチ あんまり出番がなかった。 今後審神者と関わるかは未定。 フロイドの気分次第。 ジェイド・リーチ アズールばっかりなんか優しくありません?僕ばっかりひどくありません? と思って加筆したよ 白い驚き爺と絡ませると決まった瞬間、もう君の不運は確定していたすまない。 鶴丸国永 驚いたか? あんまり悪さばっかりしてると、死後呪うぞ~。 なんてな。 一期一振 不死鳥をも殺す男 概念。 本当は大典太にお願いしようと思っていたのだけれど、フロイドと膝丸するならこっちも!と急遽変更。 さすがに本物の不死鳥を殺すことはできない、はず。 火の中に立たせると罪悪感しかないけど、夢の中なので燃えません大丈夫ですトラウマしまってください。 膝丸 推し。 SUKI 兄者と出してあげられなくてごめんね。 髭キャラの髭を切るときにはお呼びするね。

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あなた の 大きな 体 で ぎゅっと 抱きしめ て 離さ ない で 歌

これ豆な。 豆? それはただの都市伝説だよ。 日本刀が血糊で切れなくなるとか、その手の話と同レベルの与太話ね。 もっとも、 骨vs弾丸に興味を持つのは万国共通みたいで、米のヒマな人達が実験をやって、いくつもの動画をYoutubeに上げてる。 ターゲットは豚の頭、牛の頭、直径10cmはある脚骨、なんだかわからない骨塊、etc. 38spだと、ターゲットが固定してある場合、どの骨でもきれいに貫通する。 ただし、ターゲットが固定されていないと着弾と同時に骨が明後日の方向にすっ飛んで、きれいに抜けない場合もある。 9mmだと、ターゲットが固定されていない場合でも骨塊は粉砕する。 豚の頭は正面から入って、首の肉まで貫通。 残念ながら熊の頭で実験した動画は見つからなかったけど(調達困難だろう)、熊の頭蓋骨が牛や豚の頭蓋骨より 特別に強靭、ってのは考えられないしね。 問題はハンターの成り手が非常に少ないこと。 対物ライフルを警官に支給しても、クマについての知識や対応経験がなければ宝の持ち腐れ。 三毛別事件の例を見ても、経験のない警官が100人で山狩りするよりも、 経験豊富なハンターが10人でやった方が効果は高い。 なのにクマ狩りに必須のライフル銃免許と熊狩猟許可のハードルが無駄に高い。 まず散弾銃の免許と狩猟許可を取り これだけでも通常一年はかかる 、 そこから10年経たないとライフル銃は持てない。 何度か書かれている通り、趣味でなきゃ今からやろうなんてまずならない。 だから猟友会なんて狩猟免許持った老人の集まりになってる。 まずここらの岩盤規制を今からどうにかしないと、10年後クマを狩れる人がいなくなるかもしれん。 ついでに、今から警察の試験受けたとしても、よほど給与が良くなければ、正社員のくせに週5で働くことはバカげている、と個人的に考えているので、公務員は論外。 ついでに、一般ピープルが過去に散弾銃を所持していた経験を踏まえると、311被災地のような治安が崩壊した場所では、殺人罪の成立自体が平時よりも困難と思われ、確かに一般ピープルでもやかましい人間を消すことは可能というか簡単だろう。 人間2人と熊1匹で、片方の人間がもう片方を殺すべきと思う。 実験してみないと何とも言えないが、殺された人間が生贄として差し出されたら、熊は生きて逃げる銃を持った人間よりも、死んで無抵抗な人間を食べるかもしれない。 ただ、そのような被災はまれであり、そのような言論封殺は国家権力などにゆだねるしかない。 ・・・と思うが、異議があるならあなたがやってみればいい。 最高位に訓練した狩猟犬2,3匹、登山装備20キロの登坂。 サバゲー経験者って言っても何十キロもチェイサーはやれないでしょ? それだけの火力を持っても山では弓で「違法」自給自足しないと熊にバレる。 バレるから火も使え無い可能性もある。 コミュニケーションとれる犬が居なければ熊に必ず先に索敵される、眠れば餌食になるぞ。 不眠不休に近い状態で熊を追込み時速30キロ近い上下運動する熊に44マグナムも12. 7mmも2発当てるのは至難の技。 理解してるだろうけど日本の山は狭いし遮蔽物だらけ、熊はカモフラージュも上手い。 火力の問題よりも過程でくたばる。 一週間もサバイバルするサバゲーなんて無いよね。 ニワカ処か訓練した軍人でも山の熊には勝てない。 熊狩の為の火力重量が熊迄到達出来なくする。 軽いコンパウンドボーと長巻き「山刀」ザボスラッグの上下二連、犬三匹これでも五分以下。 サバゲーマー十人の経験値は狩猟犬一匹にも勝てない現実。 素手で兎を捕獲出来ないなら野生の熊なんて無理ゲーだよ。 サバゲーと狩猟て全く別物だよ。 『 良いお味。 』はその次です。 ウエスタンの『駅馬車』を含む数々の不朽の名作が1939年に公開。 ここにも虹がかかっていたのですね。 あなたのふるさと。 私は知っています。 あなたがいつも輝いていることを。 でもチコは自然体を尊重していますよ。 でも最近はお酒をほとんど飲まなくなりました。 あなたならきっと分かってくださると思います。 自然豊かな温泉地ですね。

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警察「拳銃でクマは倒せない」 : 大艦巨砲主義!

あなた の 大きな 体 で ぎゅっと 抱きしめ て 離さ ない で 歌

「お困りならば、お助けいたしましょうか?」 にっこりと笑って声をかけてきた男がいた。 振り返り、目が合う。 笑みをますます深め、手を差し出す。 「貴方を助けて差し上げましょう。 」 悪魔の誘いのような甘い囁き。 その手を取りたくなるような慈愛に満ちた表情を浮かべる男に、審神者は言った。 「いえ、結構です。 」 「サガミくん何したんスか?」 「何って?」 「アズールくんッスよ。 」 「あずうる…?」 「あ、そこからなんスね。 」 昼時、珍しく食事を共にするラギーの言葉に首を傾げる審神者。 話が噛み合っていないことに、ラギーはすでに諦めの境地だった。 ぽやぽやとした顔で焼きそばパンをもそもそ口に含みながらも、相変わらず片手には参考書がある。 進み具合は順調で、そろそろ授業で行われている範囲まで追いつきそうなところまできていた。 ハーツラビュルの花瓶怨霊事件以降もリドルの勉強会は実施された。 相変わらずのツンデレではあるが、怒られないための予習が功を奏し、順調に進めることができたのだ。 「ほら、最近よく絡んできて人いるじゃないッスか。 」 「あー、あの眼鏡の?」 「おや、お呼びですか?契約します?」 「うわっ出た。 」 噂をすれば影。 審神者としては眼鏡としか言ってないのにどうして自分だと思った、と問いたかったが、もうすでに彼と会話すらしたくなかったのでお口にチャックをした。 何も言われないのをいいことに、アズールは笑顔で審神者の隣に腰を下ろした。 「ほら、サガミくん。 この人がアズールくんッスよ。 」 「そういえば名乗っていませんでしたね。 アズール・アーシェングロットです。 契約内容のご相談でしたらいつでも受け付けますよ!」 「結構です。 」 「結構です!? でしたらすぐにでも契約書を作りましょう!」 「じゃあラギーさん、先に行ってるね。 」 話を曲解するアズールとこれ以上の会話を拒んだ審神者は、さっさとトレーを持って席を立った。 チッと舌打ちするアズールを見て、ラギーは乾いた笑いを浮かべる。 しかし、そこまでして審神者に執着するアズールに対し、興味もあった。 藪蛇だとはわかっていたが、聞いてみることにした。 「アズールくんはなんでサガミくんとそこまで契約したいんスか?」 「ブッチさんもご存じでしょう?サガミさんのユニーク魔法!」 「あー…あれね。 」 ハーツラビュルの花瓶怨霊事件により、サバナクロー内で留まっていた噂は一気に他寮へと拡散されることになった。 それにより審神者はここ最近注目を浴びることとなっていた。 それと同時に相談窓口としても大人気だった。 物を捨てたいけれど勇気がないから代わりに捨ててくれ、といった相談内容が多かった。 最初は善意で受けていた相談も、最近では金を取るようになった。 ラギー・プロデュース・ブッチ。 閑話休題。 そんな噂を聞きつけたアズールは、なんとしてもそのユニーク魔法と勘違いされている能力を欲しがった。 物を人間に出来る魔法って何!? なんと使い勝手のよさそうなユニーク魔法! 何としても欲しい! 詳しく言うと、今後経営を見込んでいる某ラウンジの経営のための人手とか。 人件費が浮くじゃないかやっほー!といった具合である。 ただし、アズールたちと審神者との間には、認識の齟齬があった。 当たり前だが、審神者の力はユニーク魔法ではない。 そもそも、生まれつき備わったものであり、他人に譲渡することはできない。 アズールが知らないのはもちろん、審神者もそのことに思い至っていない。 そのためここ最近、審神者はアズールの姿が見えるたびに逃げ回っていた。 しかしアズールがその程度の抵抗で諦めるはずもない。 すでに次の手は打たれていた。 「!」 廊下を歩いていた審神者の視界に、曲がり角から緑色をした尾のようなものが覗いていた。 恐る恐る歩み寄った審神者は角から顔を出す。 そこには、下半身が魚の尾のようになってしまっている男が倒れていた。 驚き駆け寄ると、浅い呼吸を繰り返しているのがわかり、慌てて声をかけた。 「大丈夫ですか!? 」 「っ、うっ…み、水を…!」 「水ですね!? 」 辺りを見回すと、少し先に水道があるのが見えた。 往復するには絶妙に距離があるし、残念ながら器になるものもない。 手で掬った些細な量の水を往復して持ってくるよりも、この人を抱えた方が早いと即座に判断した審神者は倒れている者の腕を掴んで持ち上げた。 その体を背中に乗せ立ち上がるが、体がぐらつく。 予想以上に重たい体を半ば引きずるようにして歩き出す。 ずるずると、水を含んだ音を引きずりながら、水道へと一歩ずつ近づいていく。 広い流し台の部分に乗せ、蛇口を捻る。 勢いよく水が出て、その体表を濡らしていく。 額の汗を拭い、生徒の顔を覗き込んだ。 「これで大丈夫ですか?」 「ええ、上出来です。 」 返ってきた言葉は背後から投げかけられた。 弾かれたように振り返ると、満面の笑みを浮かべたアズールが立っていた。 逃げようとした審神者の腕を、誰かに強い力で掴まれる。 腕を掴んだのは、水道まで連れてきた人物だった。 にいっと不気味に口角を吊り上げてギザギザの歯を見せつけられ、審神者はぞっとした。 嵌められたと気づいたときには遅い。 腕を振り払おうにも、強い力で掴まれていて難しかった。 そうしている間にアズールが近寄ってくる。 窓から差し込む光の加減で、眼鏡が反射しているのが恐怖を煽る。 「よくやりましたね、ジェイド。 」 「はいジェイド薬~。 」 「ありがとうございます。 」 「うわっ、分身した。 」 目の前に迫ったアズールに、死を覚悟していたら、いつの間にか助けた人物が分裂して増えていた。 よく似たようで異なる顔で笑った二人。 内一人がずいっと顔を近づけてきた。 「アンタが最近アズールが追っかけてる小魚ちゃん?オレ、フロイド。 よろしくね~。 」 「人違いです。 」 「あ゛?」 「フロイド、あまり怖がらせてはいけませんよ。 」 フロイドと名乗った男は一瞬前までの機嫌の良さそうな笑みから一転。 眉間に皺を寄せ、審神者を威嚇してくる。 フロイドから変身薬を受け取ったジェイドはそれを飲み干すと、みるみるうちに下半身が人間の足へと変化していく。 水道から降りてきても、不敵な笑みを浮かべるだけで、フロイドを止めるわけではない。 その間もジェイドは審神者の腕を掴んで離さない。 そんな二人を押しのけ、アズールは審神者に詰め寄った。 「さぁ、もう逃げられませんよ。 僕と契約してくださいますね?」 「貴方はその契約とやらをさせて何がしたいんですか?」 「もちろん、あなたのそのユニーク魔法が欲しいんです。 」 ドキッと、胸が嫌な音を立てる。 この世界でユニーク魔法と呼ばれているもののことはわかっている。 自分の審神者としての力が対外的にユニーク魔法と呼ばれていることも知っている。 それを、アズールは寄越せという。 この力を譲渡する術があるのかどうか、審神者に知る術はない。 しかし恐らく、自分以外にも力の譲渡を迫り、それを成したことがあるのだろう。 アズールが、黄金に輝く契約書を審神者の眼前に突きつけた。 審神者の腕を掴む力が強まった。 一瞬顔をしかめた審神者は、アズールの顔を正面から睨み返した。 「貴方がそのユニーク魔法をくださるのであれば、どんな願いでも叶えましょう。 成績アップ?お小遣いアップ?ああ、それとも片想いの相手と両想いにでもして差し上げましょうか?」 余裕の表情で笑むアズールはその笑みには嘲りすら浮かんでいる。 だって、今までの契約相手たちはそうだったから。 どんなに難しい願いだって叶えてやろうと持ち掛ければ、何でも差し出してきたから。 彼女が欲しいから、美しい声と引き換えにスタイルを良くしてやった。 ボサボサのクセ毛に悩んでいたから、速く泳ぐための大きな尾びれと引き換えにサラサラで美しい金髪を与えてやった。 きっとこいつもそうだろうと、アズールは決めつけていた。 自分一人でできないことなど山ほどある。 人を頼ることは何ら悪いことではない。 その怠惰のお陰で、アズールも得をする。 いつかのように、手を差し伸べる。 「さぁ、僕と契約して、貴方の望みを叶えてください。 」 もう一方の手に持った金色の契約書に羽根ペンを揃えて差し出す。 さぁ、ここにサインをしろ! 抑えきれない興奮に、口角が上がる。 聞いたことも、見たこともない魔法が自分の手に入る。 アズールは信じて疑わなかった。 「誰がお前なんかにやるものか。 」 冷たく吐き捨てられた言葉に、アズールだけでなく、審神者の腕を掴んでいるジェイドも、飽きて遠くを眺めていたフロイドも、驚き目を見開いた。 誰がどう見たって、審神者は現状詰んでいる。 リーチ兄弟に挟まれ目の前にはアズールもいる。 逃げ場などあるはずない。 しかし、その瞳に諦めの色はない。 意地でもアズールに屈するつもりはないという目だった。 その頑なな様子に、アズールは気圧された。 「な、何故ですか…?」 「この力は、絆だから。 私は、私を慕って信じてくれるモノたちを、裏切らない。 絶対に!」 アズールが一歩後退った。 それを見たジェイドが、強い力で審神者の腕を捻り上げた。 苦痛の表情を浮かべる審神者の足は辛うじて床についているだけで、ほぼジェイドに吊り上げられている状態だった。 「マジそういうのウゼェんだけど。 」 審神者に詰め寄ったフロイドは瞳孔が開いていた。 審神者に手を伸ばし、首を掴んだ。 じわじわと力を込めていくと、審神者の顔が赤くなっていく。 「お前はさぁ、アズールの言ったことに頷いとけばいいんだよ。 」 「ちょぉーーーっと待ったぁーーーーーー!!! 」 フロイドの手に一層力が籠り、審神者が「がっ!」と息を零したときだった。 それを遮る声に、三人が振り返ったときだった。 べしゃっと音がして、アズールの上着に何かがかけられた。 「「っ!!! 」」 一番に反応を示したのはリーチ兄弟だった。 バッと両手で口を覆ったことで、審神者の拘束が解かれた。 大きく咳き込みながらも、辛うじて座り込むことは避けることができた。 足を動かし、乱入者の元まで走った。 突然のことに驚き動揺していたアズールが、審神者を追いかけようと脳みそが指令を出したのは、奇しくもその異臭に気づいたときだった。 「う゛っ!?!? 」 「シシシッ!残念だったッスねアズールくん!アンタらを敵に回したいワケじゃないんスけど、今回は先に報酬もらってるんで、こっちの味方させてもらいますね~!! 」 捨て台詞を残して走り去ったラギーは、鼻の良さから自滅しながらも、満身創痍な審神者と逃げて行った。 「マジで割に合わねーッス!追加報酬を要求するッス!! 」 「ッゲホ、明日の、お昼でどう!? 」 「乗ったッス!! 」 咳と笑いが混ざり合いながら、二人は廊下をドタバタ駆けていった。 残された三人は、死の淵をさまよっていた。 「何この匂い~!?!? ッオエ!」 「ッ…、これ、は、恐らく…、シュールストレミング、ではないでしょうか…?オ゛エ゛ッ…!」 「二人ともしっかりしなさい!! 確かに死ぬほど臭いですが、こんなところで吐き散らかさないでください!! 」 「ちょっ!近づかないでアズール!! マジ臭いから!!! 」 「なっ!?!? 」 「そうです!!! 貴方の上着にぶちまけられたものが元凶なんですから!!! 」 「僕のせいではありません!!! 」 半泣きになったアズールと双子の追いかけっこはしばらく続いた。 双子だけではなく、道行く生徒たちにもあからさまに避けられ、アズールは本気で泣きたくなりながら一日を終えた。 しかし、彼らの不運は、これで終わらなかった。 オクタヴィネル生が、アズールの部屋を訪れた。 昨日、してやられた件の報復について相談していたため、珍しく三人揃ってアズールの部屋にいたときだった。 「ああ、リーチ兄弟も揃ってたならちょうどいい。 お前たちに届け物だ。 」 そういって生徒は、三つの箱を差し出した。 それぞれ一つずつ受け取るが、三人は顔を見合わせて首を傾げた。 「誰からですか?」 「サガミと名乗るってた奴からだ。 」 その名前を聞くと、三人は揃って眉間に皺を寄せた。 昨日の恨みは根深かった。 「昨日のお詫びですとのことだ。 」 そんなことを言われても、許せるものではない。 リーチ兄弟は一日中吐き気に苦しめられたし、アズールはお安くはない寮服のジャケットを駄目にされた。 届けてくれた生徒は「なんか希少なものらしいな。 よかったな」とだけ言い残して去って行った。 がめついアズールは、その一言にぴくりと反応を示した。 フロイドとジェイドが疑いの眼差しで箱を見つめる中、アズールは、箱にかけられたリボンに手をかけた。 「ま、まぁ、もらえるものはもらっておきますか!もちろん、あの者を許すわけではありませんが。 」 わかりやすく浮かれるアズールに、ジェイドもフロイドも呆れた顔を向ける。 アズールは、箱を開けた途端瞳を輝かせた。 「こ、これは、不死鳥の羽根でできた羽根ペン…!! 」 不死鳥の羽根は、当たり前だがそう易々と手に入るものではない。 利用価値が高い品物でもあるため、羽根ペンなどに加工する者は少ない。 そのため、輪をかけて希少な品となっている。 ライトグレーの瞳をまるで子供のように輝かせるアズールを見て、フロイドとジェイドも中身が気になった。 フロイドの箱の中には、お高いブランドの最新作の靴が、ジェイドの箱の中にはきのこリウムキットが入っていた。 二人は、アズールに負けないくらい喜びはしゃいだ。 しかし、ふと、ジェイドだけは我に返った。 なんだか、出来すぎているのではないだろうか。 自分を追いかけ回していた、いわば敵の喜ぶものを用意するなんて、おかしくはないか? 自分ならばしない。 そんなことをぐるぐる考えていたが、フロイドに声をかけられ「明日からオレこれ履いてくー!」と喜ぶ姿に、そんな疑いの気持ちは薄れてしまった。 自分も、今夜はこのテラリウムを楽しもうと気分を切り替えた。 そんな彼らに異変が訪れるのは早かった。 宣言通り、真新しい靴をおろして意気揚々と登校したフロイドは、昼を迎える前に、自らの足に違和感を覚えた。 「…?なんか、足ヘン。 」 「靴擦れではないですか?」 「んー…なんか違う感じ。 膝らヘンが…なんか…、」 言葉にならないまま、フロイドはそれでも自らの不調を片割れであるジェイドに伝えようとした。 生まれてから今まで、共に生きてきたフロイドの言いたいことも、ジェイドはなんとなく察していた。 何より、自分も朝からいつもと違った体の異変に戸惑っていた。 何というわけではない。 どこというわけではない。 しかし、違和感がある。 それは時間を経るごとに増していく。 昼時、学食ですれ違ったジャミルから声をかけられたことで、得体のしれない恐怖を感じることになった。 「今日、アズールは調子が悪いのか?」 そう言ってきたジャミルに、ジェイドは首を傾げた。 「いえ、むしろ今日は絶好調のはずですが。 」 「そうか…、珍しく小テストで赤点ギリギリの点数だったり、質問にこたえられなかったりしたから。 」 「「…。 」」 リーチ兄弟は、目を合わせて難しい顔をした。 今日、アズールは不死鳥の羽根ペンをおろして、ご機嫌だった。 そのやる気が空回りするようなタイプでもないはずだ。 違和感が、形を成して襲い掛かってきたような気がして、二人は身震いをした。 夕方、ジェイドは足を止め、振り返った。 」 夕日の差し込む廊下。 何もないそこから、土の匂いを強く感じた。 一本道のそこには、ジェイドの影が長く伸びているのみだった。 しかし、唐突に香る土の匂いが、ジェイドの足をその場に縫い留めていた。 きょろきょろと視線を動かす中、ふと、自分の手を見下ろした。 昨日、夜遅くまでテラリウムづくりに勤しんでいたことを突然思い出し、おもむろに自分の手を鼻に近づけた。 スン、と一嗅ぎした途端、ジェイドは自分の手を顔から遠ざけ、寮へ向かって走り出した。 土の香りの中から、確かな死の匂いを本能的に嗅ぎ取って、背筋が凍った。 すぐに手をよく洗い、匂いを確かめる。 薄まっていない匂いに、ジェイドは震えながらシャワーを浴びる。 もう一度確かめるが、やはり少しも薄まっていない。 それどころか濃くなってすらいる匂いに、恐怖が増すばかりだった。 ジェイドは、すぐに布団に潜りこんだ。 明日になれば、きっとなくなっているだろう。 強く願いながら目を瞑っていると、扉のノックされる音がした。 顔を覗かせたのは、フロイドだった。 膝をさすりながら、足を引きずって入ってきたフロイドは、眉を下げ、今にも泣きそうだった。 「ジェイドォ…一緒に寝ていい?」 「…ええ、フロイド。 一緒に寝ましょう。 」 自らの片割れを布団に迎え、抱き合って目を瞑った。 しかし、そう時を置かずに、再び扉がノックされた。 入ってきたのは、アズールだった。 「僕も、一緒に寝てもいいですか…?」 「ええ、もちろんですよ。 アズール。 」 枕を抱え、顔を青くさせながら弱々しい声で紡がれた言葉に、双子は自分たちの間へとアズールを招き入れた。 三人くっついて、目を閉じる。 この恐怖も、明日には消えているだろうと、祈りながら。 そうして眠りに落ちていった。 [newpage] 「!」 鳥の鳴き声に、アズールは目を覚ました。 夕暮れ時、物置部屋のような場所にいた。 座り込んだ目線の先には一つの窓があって、そこからは赤い日差しが射しこんでいた。 寝起きの頭でそれをぼうっと眺めていると、鉄格子の隙間から、鳥が飛び込んできた。 「!あれは…!! 」 その鳥は、夕日の色にも負けない赤い鳥だった。 文献でしか見たことのない鳥。 不死鳥だと、アズールは確信をもっていた。 アズールは咄嗟に、捕まえようと思って胸元のマジカルペンに手を伸ばした。 しかし、いつもそこにあるはずのそれがないことに気づくと同時に、窓の隙間から、細く輝く物が刺し込まれた。 言葉も出ないまま、真っ赤な不死鳥が落ちていくのを目で追っていた。 不自然に、一枚の赤い羽根だけが空に残り、ひらりひらりとゆっくり舞い落ちている。 羽根とは対照的に、ぼとりと重みをもって地面に落ちた、不死鳥と呼ばれているはずの鳥が、あっさりと息を引き取った。 その事実に、恐怖が体を支配する。 部屋に影が落ちる。 窓の方を見ると、男と目が合った。 びくりと体が跳ねる。 「露と落ち、露と消えにし我が身かな。 」 目元に影を落とした男が、うっそりと笑った。 まるでその台詞を待っていたかのように、羽根が地面にゆっくりと着地した。 その瞬間、羽根の赤さに負けない炎が上がった。 た、助け…、」 アズールの顔からさっと血の気が引いた。 炎は、物置部屋の中に積まれた物たちに次々引火していく。 助けを求めるように窓の外の男を見やった。 柔和な笑みを浮かべる男が持っている物が剣であることに、その時気づいた。 堂に入った構えでその刀を構える男。 混乱したアズールの頭でもすぐに理解できた。 その剣が次に刺すのは、自分だということを。 腰が抜けて立ち上がれないながら、アズールは震える手で体を引きずり扉を目指した。 押しても開かない扉に焦りが最高潮を迎える。 火の手は、どんどんとアズールの元へと迫っていく。 肌が、ちりちりと熱さを訴え、乾いていく感覚が怖かった。 「大丈夫。 炎が全てを焼いて、なかったことにしてくれます。 貴方の罪も、ね。 」 「っ!!! 」 すぐ背後から声がして、弾かれたように振り返った。 外にいたはずの男が、いつの間にか後ろに立っていた。 「どうぞ、お選びください。 炎に焼かれ許されるか、我が刃にて切り伏せられ許されるか。 」 炎を背に立つ男の顔は、アズールからは見えなかった。 青空のように澄み渡った髪色が、燃え盛る炎の色に塗り変えられていくようだった。 アズールは、呼吸すらままならず、刀を構える男を見上げた。 「では、両方というのはいかがでしょうか?」 「ひっ!! 」 「私も心苦しいのです。 ですが、主の怨敵を、許すこともできない。 」 男は優しい笑みを浮かべながら、しかし容赦のない言葉でアズールを責め立てる。 背を扉に押しつけ、泣きそうな顔で首を振る。 しかし、非情にも男は距離を詰める。 男から目を離せないでいると、アズールの爪先に火が移った。 「お覚悟。 」 熱さに驚き飛び上がった瞬間、視界に閃光が走った。 それが刃で、袈裟懸けに切られたのだと気づいたときには、炎が全身を包んでいた。 熱さに悲鳴を上げることもできないまま、ただ乾いていく感覚の中、意識を失った。 目が覚めても、足は痛みを訴えていた。 もう立ち上がる気力さえ残っていない。 フロイドは、見知らぬ場所で座り込んでいた。 これが夢だとすぐにわかったが、あまりにリアルな痛みに完全にやる気をなくしていた。 痛みに耐えるように丸くなって寝転んでいると、コツコツと音が響いてきた。 誰かが歩み寄ってくる音だと気づいても、フロイドは体を起こさなかった。 靴の音に交じって、何か、固い物を引きずる高い音が混ざり始めた頃、血の匂いが濃く香ってきた。 「?」 痛みを堪えてのそりと上体を起こす。 音のする方を見て、眉を顰める。 嫌な気配がする。 マジカルペンを構えようとして、いつもある場所にあるそれが見当たらなくて、まずいと思った。 足に力を込めて立ち上がろうとするも、もう足が別物になってしまったかのように、感覚がなくなっていた。 しかし、音は止まることなく近づいてくる。 焦ったフロイドは匍匐前進の要領で音から遠ざかるように移動し始めた。 しかし、歩く速度と這う速度では比べるまでもない。 当たり前のように距離が詰められていく。 フロイドは背後を振り返った。 人の姿が視認で来た。 黒い装束の男は、剣を引きずって歩いてくる。 動かす腕の速度を上げるが、限界がある。 いつの間にか、男はフロイドに追いついていた。 顔前の地面に、さくりと剣が刺し込まれ、フロイドは動きを止めた。 「兄者を差し置いて俺でよいのかとも思ったが、主を害するものを放っておくこともできないのでな。 」 フロイドが見上げた男は、真面目そうな顔をしていた。 黄金色の瞳が薄暗い中でぎょろりと鋭く光っている。 蛇に睨まれたウツボのように、フロイドは動けなくなってしまった。 薄緑色の髪をした男の視線が、フロイドの足元へと移る。 「その足、よほどいらないと見える。 」 視界から、ゆっくりと剣が消えていく。 切っ先が光を反射させ、それに見とれている間に、空気を裂くような音がする。 「…あ……?」 ごろりと視界の端に何かが転がった。 血に濡れた棒のようなそれは、まるで足のようだ。 その足のようなものが履いている靴に見覚えがあった。 視線を下半身に向けたとき、フロイドは声を上げた。 「ぎゃあああああ!!! 」 痛覚が消えていたから気づけなかった。 視界の端に転がって来たもの。 それが己の足だと気づいて、フロイドは絶叫した。 「騒がしいな。 その口も、塞いでやろう。 」 冷たい瞳で見下ろす男は、無慈悲に剣を持ち上げた。 フロイドは、その切っ先が自らの顔に到達する前に、意識を落としたのだった。 酷い匂いがして、目を開いた。 手からしていたはずの死臭の満ちた場所に、ジェイドは横たわっていた。 口元を手で覆い、この場から離れようと立ち上がった。 辺りを見回すと、知らない場所にいることに気づいた。 少し雰囲気は異なるが、墓地のようだと思った。 とにかくここにはいたくなくて、あてもなく歩き出す。 墓と思われる石と石の間を歩いていく。 しかし、どこまで行っても終わりが見えなかった。 気分が悪くなっていく中、ジェイドは足だけは止めなかった。 それからまたしばらく歩くと、一際大きな石が見える。 ジェイドは、その石に誘われるかのように、ふらふらとした足取りで近づいていった。 大きな石には名前が彫られているように見えたが、ジェイドにはその文字を読むことができなかった。 ぼうっと眺めていると、地面がぐらりと揺れた気がした。 それが気のせいではないと気づいたときには、ジェイドはバランスを崩して尻餅をついていた。 そのとき、ボコッと音がして、地面から人の手が飛びだしてきて、ジェイドの手に重ねられた。 驚きその手を振り払ったジェイドは、地震の止んだ地面を蹴り、走り出した。 しかしすぐにその足は止められることになった。 今まで通ってきた石の下から、骨になった体が出てきたからだ。 ジェイドは慌ててきた道を取って返した。 そして大きな石の元まで来ると、他とは違い、きちんと肉のある体が地面から出てくるのが見えた。 白い服を土で汚し、体を引きずり出す男が顔を上げる。 「ひっ!! 」 ジェイドは、珍しく情けない声を上げた。 それもそのはず、男の顔の半分が腐り落ちていたからだ。 もう半分からは生前さぞ男前だっただろうと推測することができる。 その肉のついている片側を人の良い笑みで彩って、立ち上がる。 「驚いたか?人の手を渡り歩いてる間に粗雑に扱われてなぁ…こんな風になってしまった。 」 溌溂とした声音と、骨の見える顔の対比が、ジェイドの恐怖を一層煽る。 震える足を動かそうとするが、地面に縫いつけられたように動かせなかった。 その間にも、真っ白な男は近づいてくる。 一歩近づくたびに、着物がボロボロになっていく、肌が見え、そこが腐っていく。 蛆虫の湧く体を何とも思っていないのか、男は笑顔のままジェイドに近づいてくる。 「逃げる足があればよかったんだがなぁ…あいにくそれも以前の俺にはないものだった。 」 艶のあった白い髪も、ジェイドの目の前まで来る頃には縮れ、抜け落ち、腐った顔側の髪はすでになくなっていた。 ほぼ白骨化した右手を差し出し、震えるジェイドの頬に添えた。 「あまり人を追いかけ回していると、」 ボロッと、何かが落ちる。 「お前もこうなるぜ?」 そう言って離れていく手に、肌色と赤色をした何かが乗せられていた。 それが自分の肌だと気づいたときには、体を死臭が覆っていた。 「っあ、ああ…!あああああああああああああああ!!!!! 」 腐ったものの匂いがして、それが自分の肌で、それがどんどん広がっていく。 ぼとぼとと地面に落ちるものを直視できなくて、目を閉じ体を小さく丸めた。 それでも腐敗は止まらなくて、どんどん意識が遠退いていく。 自分が何か別のものに作り変えられていく気がして、怖かった。 「罰当たりなことはするんじゃないぞ?」 じゃないと。 目を開けるジェイドの視界に、真っ白な男が映った。 腐敗もない、ただただ神々しいまでの人間の姿が。 「「「っ!!!!! 」」」 アズール、フロイド、ジェイドが飛び起きたのは、ほぼ同時だった。 それぞれが今見た夢に冷や汗を流し、震えていた。 自分の体を触って確かめ、次に隣にいる幼馴染の、兄弟の体を触って確信する。 生きてる、足がある、腐ってない。 何も言わないまま、三人は抱きしめあっておいおいと泣いた。 今はただ、無事であったことに安心して。 泣き疲れて眠るまで、三人は大泣きするのであった。 「いやぁ~脅かしすぎたかな?」 軽やかに笑う鶴丸の顔を見て、審神者は苦笑を浮かべる。 「内容は聞かないでおくよ。 」 「聞いてくれないのか?渾身のできだったんだがなー…。 」 心底残念そうな顔で肩を落とす鶴丸の額を小突いて、審神者は大きく伸びをした。 「さて、そろそろ私も起きなくちゃ。 」 「夢の中でしか会えないなんて、不便だなぁ。 帰ってこれる算段はついたのか?」 「…、まだ…。 」 「…そっか。 」 それだけ呟くと、鶴丸はぽんぽんと審神者の肩を叩く。 笑みを浮かべ、胸を張る。 「まぁ、君は今まで外の世界に触れることなく育ってきたんだ。 これは神の思し召しだ。 外の世界を見て知り、学んで来いとな!」 「神がそれを言うのか?」 くすくすと笑いを零して、審神者はふと寂しそうな顔をする。 「それでも、早く帰りたいよ。 貴方たちのいるところが、私のいる場所なんだから。 」 「おっ!嬉しいことを言ってくれるねぇ!でも、焦らず、今を楽しめよ、主。 」 鶴丸は、審神者を置いて一人歩き出す。 少し先の光の中に、一期一振と膝丸が立っている。 彼らの元へ歩み寄り、すぐそばまで行くと振り返る。 「今生の主たる君といるのが、俺たちの喜びだ。 でもな、君が楽しいと、俺たちも楽しいんだぜ!」 「っ、…うん。 」 「一足先に、本丸で待ってるぜ!」 大きく手を振る男たちの姿が、光に溶けて消えていく。 審神者はその光に背を向け、歩いていく。 今日も、一日が始まる。 [newpage] 審神者 前回くらいから、夢の中で出会う刀剣たちは自本丸の本物の刀剣であると気づいた。 夢の中で出会う彼らに安心している。 帰る場所は、彼らのいるところ。 オクタ三人衆に渡したものは、依頼で預かった怪しい品。 買ったはいいが、悪いことばかり起こるから処分してほしいと頼まれていた。 ラギー・ブッチ ナイスアシスト。 数日前に昼飯で買収されていた男。 シュールストレミングでその後自滅した。 アズール・アーシェングロット 今回の諸悪の根源。 この事件後、しばらくは大人しいが、またすぐに悪徳商売を始める。 もうすぐ試験だもんね! 審神者とはしばらく距離を置く。 審神者の力はまだ諦めていない。 いずれタイミングを見て契約しようとしてる。 めげない。 フロイド・リーチ あんまり出番がなかった。 今後審神者と関わるかは未定。 フロイドの気分次第。 ジェイド・リーチ アズールばっかりなんか優しくありません?僕ばっかりひどくありません? と思って加筆したよ 白い驚き爺と絡ませると決まった瞬間、もう君の不運は確定していたすまない。 鶴丸国永 驚いたか? あんまり悪さばっかりしてると、死後呪うぞ~。 なんてな。 一期一振 不死鳥をも殺す男 概念。 本当は大典太にお願いしようと思っていたのだけれど、フロイドと膝丸するならこっちも!と急遽変更。 さすがに本物の不死鳥を殺すことはできない、はず。 火の中に立たせると罪悪感しかないけど、夢の中なので燃えません大丈夫ですトラウマしまってください。 膝丸 推し。 SUKI 兄者と出してあげられなくてごめんね。 髭キャラの髭を切るときにはお呼びするね。

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